シルヴァ
7 件の小説ナマケモノ母さん
母親といえば、やっぱり女の人だよね! 年齢はさておき…妻というのは共働きであったり、専業主婦であったり。 そんな人達が多いよね? でもやっぱり、そんな人達にも例外があると思うんだ。 え、DVとかそういう人のこと言ってるのかって? 違う違う! 俺が言いたいのはそういうことじゃなくて…。 なんて言ったらいいかな? 俺の母さん、人間じゃないんだよね。 え? 自分の母親も怒れば雷落とすし、もはや鬼婆(ここだけの秘密な?)だし、そんなの当たり前だろって? 違うんだよ。 俺の母さん、マジで人間じゃないから。 人間じゃないならなんだよって? それがな…。 “なまけもの”なんだよな。 ちなみに、なまけものはなまけものでも、怠け者じゃなくて、ナマケモノな。 ナマケモノといえば、木にぶら下がってるイメージが一般的かな? そうそう、あの1日の大半は動かないだとか、動きが遅いとか色々言われてる動物のこと。 「は?」 「ふざけてんの?」 とか思うだろ? 俺もこれが夢だったらって思う。 だけど、現実なんだよな。 なんで父さんがナマケモノと結婚したのかは知らないけど…。 (まあ、知る気もないけど)……。 今まさに目の前に洗濯物を畳んでる母親の姿があるんだよ。 ナマケモノが忙しなく、な。 色々矛盾してる気もするが、あの爪でよく洗濯物をダメにしないよな。 うっかり突き刺さらないように気を使ってるんだろう。 まあ、そんなことはさておき、本題に入ろうと思う。 なんで俺がこんなことを言い出したかというとだね…。 母さんの観察日記を付けようと思ったからだ。 は? マザコンかよ。 って絶対思っただろ? この一文だけ見たら絶対そう思うよな? でも考えてみて欲しい。 俺の母さんは人間じゃない。 人間じゃなくて、ナマケモノだ。 しかも家事も仕事も出来る、スーパーナマケモノだ。 そんな生き物が目の前にいたら、誰だってその謎を解きたくなるだろ?笑 てことで、早速それ用のノート買いに行くかな。 詳しいことはまた明日、だな。
餅から始まる異世界転生(連載)
12月31日 23:59 あと少しで年が変わる。 「やべっ、急がなきゃ」 テレビを付け、いそいそと年を越す準備をした。 除夜の鐘の音を聞きながら、そばと餅を食べて過ごす。 それが俺の年越しスタイルだ。 「あちっ。ふーっ、ふーっ」 最初にそばの汁を一口飲むと、火傷をしそうになり、慌ててお茶を飲む。 「ぷはっ!今年ももうすぐ終わりか……」 「……長かったな、色々と」 目を瞑り、今年一年を振り返る。 ……色々あったなあ。 (脳内) 陰キャ・口下手・集団苦手の三拍子な俺 それが最悪な方向に働いて、今まで先輩方から渡された書類を参考にして作成した書類はミスだらけ。 電話対応を間違え、何故か取引先と口論することに。 入社してから今年が終わる最後まで質問出来なかった俺に、先輩や上司は怒るどころか呆れ、鼻で笑われる始末。 「……」 思わず遠い目になりながら苦笑する。 「こうして振り返ってみると、ろくな事なかったな……」 ゴーン ゴーン ゴーン…… 「おっ!」 静かな部屋に除夜の鐘の音が響き渡る。 「……今年こそ、いい年になるといいなあ」 ぼやっとしながら口に放り込む。 それが最後の一口になるとも知らずに。 「……うっ!」 どんどんどんっ ボーッとしていたせいか、気管に餅が入り込んだ。 慌てて胸を叩く。 しかし、放り込んだ一口が思いのほかでかかったようで、なかなか出てこない。 それならと水を飲もうと手を伸ばしたが、時既に遅く、少しずつ意識が遠のいていった。 (「あ、やべ……」) 体から力が抜けてゆく。 (「死因が餅とか、シャレにならんわ……」) ドサッ そして男は意識を手放した。
餅から始まる異世界転生
12月31日 23:59 あと少しで年が変わる。 「やべっ、急がなきゃ」 テレビを付け、いそいそと年を越す準備をした。 除夜の鐘の音を聞きながら、そばと餅を食べて過ごす。 それが俺の年越しスタイルだ。 「あちっ。ふーっ、ふーっ」 火傷をしそうになり、慌ててお茶を飲む。 「ぷはっ!今年ももうすぐ終わりか……」 「……長かったな、色々と」 遠い目をしながら、今年一年を振り返る。 ……色々あったなあ。 (頭の中) 陰キャ・口下手・集団苦手の三拍子が最悪な方に働いて、類似書類を見つつ、自己判断のもと作成した書類はミスだらけ。 電話対応を間違え、何故か取引先と口論。 最後まで質問出来なかった俺に、先輩や上司は怒るどころか呆れ、鼻で笑われる始末。 「……」 「こうして振り返ってみると、ろくな事なかったな……」 ゴーン ゴーン ゴーン…… 「おっ!」 静かな部屋に除夜の鐘の音が響き渡る。 「……今年こそ、いい年になるといいなあ」 ぼやっとしながら口に放り込む。 それが最後の一口になるとも知らずに。 「……うっ!」 どんどんどん 餅が喉に詰まり、慌てて胸を叩く。 が、思いのほかでかかったようでなかなか奥に落ちない。 水を飲もうと手を伸ばしたが、時既に遅く、少しずつ意識が遠のいていく。 (「あ、やべ……」) 体が横に傾いてゆく。 (「死因が餅とか、シャレにならんわ……」)
とある魔族の日記
人間がするという日記を、魔族である自分もしてみる。 ***** ある日、目を開けると深い深い闇の中にいた。 右を見ても左を見ても、天を仰ぎ見ても何も見えない。 手足を動かしたり、適当に叫んだりしてみたが物音ひとつしない。 何故こんな所にいるのか、全く検討がつかない。 立ち上がってしばらく歩いてみると、黒の装飾が施されている両開きの扉が見えた。 暗闇の中にいるのに何故黒だと認識出来たのか、全く検討がつかない。 試しに扉を押してみたが、びくともしない。 鍵穴から向こう側を覗いてみると、視界が白く染まった。 どうやらあちらは、こちら側と違って白い世界らしい。 こことは異なる空間があると分かっただけでほっとする。 もしかしたら人に出会えるかもしれない。 鍵がかかっているのなら、鍵を探せばいい。 鍵が見つからなければ、扉を壊せばいい。 そう考え、黒い世界の中で鍵を探す旅に出た。 私は、鍵ーー答えーーを見つけることは出来るのだろうか。 さて、先程目覚めたばかりだが、自分がただの生き物ではないことの自覚はしている。 暗闇で目が見えるとは、自分は鳥の仲間なのだろうか。 背中に力を入れてみても何かが動く気配はしない。 そもそも力んだところで翼は動くものなのだろうか。 背中を触ってみたところ、自分の両手がぶつかっただけで終わる。 どうやら鳥ではないようなので、それは自分には分からない問題となった。 この黒き世界から飛び出したら何をしようか。 全く検討がつかない。 全く思いつかない。 白き世界に行けば、思い付くことが出来るのだろうか。 期待を胸に、いつものように鍵を探す旅に出る。 *****************
僕らは今日も黄昏時に嗤う
昔昔、ある所に…。 人間の子供が住んでいました。 その子の名前は◼◼◼。 親兄弟もなく、毎日生きるので精一杯な生活をしていました。 一度でいいから、世界を見てみたい。 子供は、ただそれだけを叶えるために、山の中腹にある小さな神社に向かいました。 そこから世界が見えるかは分からなかったけれど、年に一度、村の人達がそこに向かうことは知っていました。 なので、そこに行けばきっと世界を見れるはず。 そう思った子供でしたが、その足取りは次第に重くなっていきます。 1日ロクな食事もとれていない幼い身体にとって、山を登るというのはとても過酷なことだったのです。 あと少しで着く。 手を伸ばせば届く距離。 神社を目の前にして、子供はとうとう倒れてしまいました。 起き上がろうにも、もう身体には力が入らない。 もう、死ぬのかな…。 ぼんやりした意識の中で、ゆっくり目を閉じようとする子供の耳は何かを捉えた。 チリーーン チリーーン 小川のせせらぎのように澄んだ、優しい音。 カラコロと石畳に響く、下駄の音。 そして……。 『生きたいか?』 男とも女とも分からぬ、不思議な雰囲気を漂わせる言の葉。 薄れゆく意識の中で、子供は何かを呟く。 「◼◼◼◼」 そして、そのまま意識を手放してしまったという…。 その後、子供がどうなったのかは誰にも分からないのでした。
空耳
僕は昔から、音がよく聞き取れない。 こういうと、大抵の人は「あ、耳が聞こえないんだな」と思い込んでしまう。 でも、実際は違うんだ。 耳が聞こえないんじゃなくて、音が上手く“聞き取れない”んだ。 同じ言葉を聞いても、違う言葉に聞こえてしまう。 「今日のご飯はラーメンよ」 「扶養の露伴は羅雨酔い?ごめん、もう一度言って?」 「…今日のご飯は、ラーメンよ」 「え?もう一回」 毎日何度も聞き返すうちに、何か障害を持っているんじゃないかと、両親に病院へと連れていかれた。 違う、僕は病気じゃない! 音が、聞き取れないだけなんだ!! 何度そう叫んだだろう。 毎日腕を引かれ、無理やり病院に連れていかれる。 その度に、医者に異常無しと言われる親の僕を見る目が、愛情のこもった眼差しから、腫れ物を触るような目付きに変わったのはいつからだっただろうか。 次第に僕は口をつぐみ、耳を塞ぎ、心を閉ざした。 しかし、耳を塞いでも音は僕の中に入りこんでくる。 『やめろ、僕の中に入ってくるな!!』 僕は僕の部屋にあるPCを壊し、スマホを捨て、ラジオとテレビを外に投げ捨てた。 それでも僕の中に入ってくる音の数々。 どうして? 音を発するスマホもラジオもテレビもパソコンもない。 なのにどうして音がする? 考えて……。 考えて、考えて……。 とうとう僕は、気付いてしまった。 『そうか、僕だ』 僕がいるから音がする ボクがいるから音がキコエル ボクがイルからオトがアルんだ ボクガ……イルカラ? ボクガイナケレバ、オトガシナイ ボクガイナケレバ、オトハ……キコエナイ? じゃあ、どうしたら音が聞こえない? 『・・・・・・サヨナラ』 その日から、僕の部屋から音が聞こえなくなった。 少年は、嬉しそうに笑っていたらしい。 顔に涙の跡を残しながら。
還り道。(かえりみち)
『人間はね、死ぬとお空に還ってしまうんだよ』 遠い昔、誰かに聞いたこの言葉。 いつ、どんな時に言われたのか思い出せないのに、この言葉だけがずっと記憶に残っている。 …何故。 何故、今、この言葉を思い出したのだろう。 目の前で愛する人の命の灯火が消えようとしているからか。 自分自身の生の脈動が止まろうとしているからか。 それとも、久しぶりに休みが合い、思い切って遠出をしようと話したことがいけなかったのか。 旅行の帰りに交通事故に巻き込まれ、雨が降るなか、道に寝そべる2人の姿。 遠くで救急車を呼ぶ人の声がする。 近くで大丈夫だと言う人の声がする。 赤い水溜まりが視界に映る。 これは……誰の血? 彼女のか? それとも……自分の。 何かが喉の奥に詰まり、何度も何度も咳をする。 その度に口広がり溢れる、鉄の味。 「み……な、と……さん……!」 咳き込みながら、小さく愛する人の名前を呼ぶ。 しかし、返事はない。 どうやら彼女は先に還ってしまったようだ。 大丈夫だよ、僕もすぐに還るから。 彼女の名前を呟きながら、ゆっくりと瞳を閉じる。 目を覚ましたら、きっとまた会えるから。 だからそれまで待っていて。 僕の愛しい人。 愛してる。