お好みオヤジ
4 件の小説バランス注射
皆さんはドラえもんのひみつ道具の【バランス注射】をご存知でしょうか この注射を打つと「いい事」の後に同じだけ「わるい事」が起き 「わるい事」の後には同じだけ「いい事」が訪れるというもの いつものようにのび太にはわるい事が降りかかる テストで0点を取り先生に怒られる ジャイアンとスネ夫にバカにされる しずかちゃんも出来杉君と勉強 帰りに犬に追いかけられる 当然のようにドラえもんに助けを求めて出してもらった道具 そんな時に限っていい事ばかり起こって、あとから不運がドチャっとやってくるというオチ ※※※※※※※ 人間って産まれて直ぐにこの注射を接種されてると思う 正に人生の縮図のようなストーリーだと思った いい事ばかりは続かないし、悪い事ばかりも続かない だから「何で自分ばかりこんな目に」と思わない様にしよう 今不幸のどん底の人。それはきっとこれこらいい事が訪れる 若しくは自分では忘れてるかもしれないだけで、とてもいい事の後なのかもしれない 今まで嫌な事だらけだった人。これからはいい事しか訪れない 運がずっと良かった人。覚悟しよう きっとバランス注射は一生効果があると思う そう思いたい
Happy Xmas Song
枯葉が街をつつみ ジングルベルが流れ出し 木枯らしも特に気にはならないけど 今年も鈴の音と キミの眩しい笑顔とが ボクの心に響く、取り残されたように 神様お願い勇気を与えてよ ボクがキミだけに 全てを見せるから 愛と夢と希望と 夏の残りの花火を 小さな瓶に詰め込んで キミに手渡そう ボクがフタを開けると 夜の空に投げてごらん 白い雪が降ってきたら それはボクのハッピークリスマスソング きっと気づいてないけど 去年のイブはひとりで キミのために作った歌を歌ってた 今年こそはキミに 届けたいこの思い ひとりぼっちのイブは味気ないから 昨日と今日と明日と 過去と未来と今を 小さなツリーに実らせて キミに手渡そう 君が吐息かけると 夜の空に投げてごらん 白い雪が降ってきたら それがボクのハッピークリスマスソング
memories
いつもの待ち合わせの 時計台の公園で 君はもう二度と来なくても 僕は待ち続けていたよ 何も考えたくない 全てが夢であって欲しいと 君を失った今は それを願うしかないけれど ひとりぼっちの僕の 願いが叶うのなら ふたりでよく笑った 夢を見ていたい 愛のうたのバイエルは 次のページが破れたけれど ふたりで歩いた日々の 木々が優しく包み込んでた 「あなたの背中はいつも寂しそうね」 と、言ってたね 君のやつれた横顔が 時の速さを語ってた 愛のためにつく嘘は 本当の事より本当の 笑顔が先に歩き出す 「ごめんね」の言葉を抱いたまま… 愛のうたのバイエルは 次のページが破れたけれど ふたりで歩いた日々の 木々が優しく包み込んでた
飛行機雲
1 僕には付き合って5年になる彼女がいる 彼女とは高校卒業からの付き合いでお互いに卒業後直ぐに就職をしていて、二年前から同棲をしているんだ 彼女はサトミ 小さな工場で事務をしている 僕は鳶だ 体力自慢の、若さだけしか取り柄のない男だと自負している 見た目も冴えない それに比べてサトミは美人だ 仕事も家事も完璧にこなす、正に才色兼備を絵に書いた様な女で 正直俺なんかには釣り合わない そろそろ結婚も考えているんだが、そこに踏み切れない理由がある 何とも表現しづらいのだが…彼女が怖いのだ いや、怖いと言ってもすぐ怒るとか怒ると怖いとかでは無い 何処と無く人間離れしていると言うか、とにかく完璧過ぎるのだ あれだけ美人なら他の男も放っておかないだろうし、声をかけてくる輩も実際多いらしい しかし、僕を選んだ いや、選んでくれたんだ 卒業式の後に彼女から声をかけられた サトミは誰にでも優しい人気の美人で、クラスでも陰キャ軍団の僕にとって高嶺の花で勿論話しもしたことも無い 「君の事ずっと気になってたんだ。この後予定無ければちょっと話さない?」 そう言われて行った桜の綺麗な公園で告白されて、流れと勢いで付き合った彼女 僕はおお喜びだったさ だってカースト最上位のサトミが冴えない僕の事を好きだなんて そりゃ舞い上がったね 何が不満なのか?と良く言われるんだが正直不満はない しかし、何かしっくり来ないんだ まず彼女は僕を名前で呼ばない 常に「君(キミ)」と呼ぶ それだけならどうってことないと思うだろ? 毎日呼ばれてみ? 不気味な感じさえ起こってくるんだよ そして何でも僕の言うこと聞くんだ デートも僕の行きたい所に行ってくれるし、食事も僕の食べたいものを作ってくれる だけど、一度たりとも自分の意見を言って来ないんだ そう、卒業式の後を最後に 何故自分の意見を言わない?と少し怒り気味で言ってしまった事があってね その時はいつもの満面の笑みで 「君の行きたい所が私の行きたい所。君の食べたい物が私の食べたい物だから」と言った その時は、可愛いなと思ったよ でもそれも毎日なんだよ あぁ。 そこもな…引っかかるんだ 両親には何度か会ってる 普通の人に見えた 本当に普通 それで昨日の事なんだ 彼女の両親から呼び出された 「明日サトミには内緒で家に来て貰えませんか」 2 僕はサトミには仕事だと言い、親方に事情を話し、休みを貰って電車で3駅程の我々の生まれ育った町にあるサトミの実家に行った チャイムを鳴らすと彼女の母が出迎えてくれる 「中にどうぞ」 中に入るとソファーに腰掛けるよう促され、僕は座った 冷たい麦茶を出してくれたサトミの母がついていたテレビの電源を消す 「う~ん。何処から話そうかしら… そうね。実はサトミは本当の私達の子供じゃあないの」 僕は驚きとサトミの母の強ばった表情を見て声が出なかった 「あの子がまだ7歳の頃ね、子供が出来ない身体だった私達夫婦に里親の話しがきてね 勿論こちらからも申請はしてたのよ それであの子を引き取ったの あの子の実の両親はね、不慮の事故で亡くなったのよ 家族で車に乗って買い物に出かけたら後ろから猛スピードで走ってきた車に突っ込まれて… 居眠り運転だったそうよ あの子だけ奇跡的に助かって… そこまでは一時的に預かられた親戚の方に聞いたの」 それを聞いた時僕は忘れかけてた記憶が少しづつ、一つづつパズルのピースを埋めるような感覚で思い出してきた 実は僕には幼少期の記憶が無い 車… 事故… 何だ?この感覚は。僕はじっとりと滲み出る汗と震える身体を両手でしっかりと押さえてサトミの母親の顔を見た 「ごめんね 何か思い出した?」 あ、あ、あ… 僕は僕の意志と無関係に変な声を出していた 「追突して来た車ね 貴方のお父さんが運転していたのよ。 その事故で貴方のご両親もそのまま…」 僕には両親が居ない 高校まで祖母に育てられたのだった 両親は事故で亡くなったと聞いている そんな僕を育ててくれた祖母は去年逝去している まさか…僕もその車に? サーっと音を立てて血の気が引くのが分かった サトミの母親は冷静に僕を見つめている 「サトミはね、両親を失った寂しさで完全に心を閉ざしてしまってたの。 ただ、葬儀の時にお婆さんに連れられて来た貴方の事をずっと見てたの。そう、まるで蛇がカエルを見る様な冷たい視線で… 貴方もご両親を亡くしばかりで辛かったろうに」 僕は手足が冷たくなるくらいに震えながら、話の続きを聞いた いや。正直聞きたくなかった でも、サトミの母から目を離せなくなっていた 真っ直ぐに僕の目を見て無感情のまま話しを続ける 「あの子が中学生の頃ね。たまたまとなりの学校に通う貴方を見かけたらしいの 学校が違ったから、貴方の学校に通っている友達を探して貴方の事をだいぶ調べたの それであの高校を受験するって情報を得て、あの子も…ね」 僕は何も知らなかったのだ サトミは才色兼備、もっといい高校だって行けただろうに 僕を追いかけて入学したって事か? 有り得ない それで、だから何だって言うんだ 何故サトミの母はこんな事を僕に言うんだ? 暫く沈黙した母親は、一度顔を伏せてから目線だけ上げて僕を睨めつける様に見て言った 「貴方ね。サトミに殺されるわよ」 3 僕は脳天を叩かれた様な衝撃を受けた いや、実際叩かれた訳ではないがとにかく閉口してしまった 一度にこんなにたくさんの情報処理に頭が追いついてなかったのだ 「貴方今日がなんの日だか分かる?」 え?今日は…両親の命日 って事は、! 「そう。16年前の今日あの事故が起きた日よ あの子はね、復讐の為に貴方に近づいたの」と言ってサトミの母は一度席を立ち、彼女が書いた数冊の日記帳を持ってきた 僕は最初から全て読んだんだ そこには彼女が中学生の時に僕をたまたま見かけた時からの計画が綴らていた とても丁寧な文字で、又力強く 僕は唖然とした 最後の日付は高校の卒業式の日だった 「私は今日、君に告白してお付き合いする事になりました パパ、ママあと5年待っててね。私はアイツを連れてパパとママの所に行きます。 私達家族を苦しめたアイツら家族に復讐できるよ。楽しみに待っててね」 気が付くと僕の目から大粒の涙がこぼれていた それが恐怖のものか、懺悔のものか、哀れみのものなのか分からず 子供のように大きな声を上げて泣いていた 僕は… 僕は… 不思議とサトミに対して敵対心や恐怖は感じなかった ただただ訳の分からない感情を抑えきれなかったのだ サトミの母は黙っていた どれくらい経ったのであろうか 徐々に冷静さを取り戻した僕は、ひとつの疑問を抱いた 何故サトミの母親は僕に今更こんな事を告白してきたのだろうか 彼女だってサトミの復讐に賛同していたのではないか? その時彼女は重たそうに口を開いた 「逃げなさい」 「私だってあの子を失いたくないの 正直日記を見つけた時はあの子に対して恐怖心でいっぱいだったわ あの執着心に満ちたあの子の行動に恐怖したの あの子を失う位ならいっそ私が貴方を…と、思った事もあったわ」 感情をどこか忘れて来たような目で僕を凝視する 「でもね、もう終わりにしたいの 私もサトミも歪んだ感情のまま今日まで生きて来たの 今日で気持ちの整理をつけて、これから普通の家族として余生を生きて行きたいのよ」 少し彼女の表情が緩む 僕の頭の中で何かが弾ける音がした はっきりと… 4 僕はサトミの母に挨拶を済ませると勢いよくサトミの実家を飛び出した サトミ… サトミ…! 心の中で何度も叫んだ いや、口に出てしまっていたかもしれない それくらい夢中で家に向かった 今までのサトミの表情や態度 何処と無く感じていた違和感 その全てを理解した今、僕に出来ることはただひとつ それはサトミを守る事 サトミを守って自分から命を絶とう。それがサトミを、サトミの家族を守れるたった一つの方法 とてつもなく長く感じた帰路 やっとの思いで辿り着いた我が家の玄関を開ける サトミ!! 部屋には誰もいなかった 普段ならばとっくに戻ってきて食事の準備をしている時間だ いつも通り片付けられたちゃぶ台の上に一通の封筒があった ※※※※※※※※※※※ 親愛なる君へ 私は私の命より大切な両親を奪った君の家族を許さない 私は君と一緒に両親の元に行き、死ぬよりもキツい復讐をしようと決めたの だから卒業式の日に君に近づいた 毎日君の理想の彼女を演じるためにたくさん努力をしてきたわ パパとママに約束したの 君とお付き合いしたあの日から数えて五年後の今日、君を連れて行くって この日を楽しみにどんな辛い事も我慢出来た でもね、この日が近づくにつれ徐々に気持ちが変わって来たの 大人になったってことかしら 気づけば君の事が好きになっていたの パパとママと同じ位 君の事が大切な存在になってきたの だから私はこれ以上君とは一緒に居られない 許されないの 今までありがとう 大好きなアキヒロ君 ※※※※※※※※※※※※※ やっぱり… 僕は手紙を握り締め玄関を叩き開けて全力で走った サトミの母はこうなる事を予感していたのかもしれない この為に呼ばれたのかと でも、もう僕にはそんな事はもうどうでもよかった サトミが初めて僕の名前を呼んでくれた サトミが初めて自分の意見を言ってくれた どれくらい走っただろうか 僕はあの日告白を受けた桜の綺麗な公園にいた 今は初夏 そこには桜は咲いていないが、当時と何も変わらない光景があった 胸の奥がチクリと痛んだ 僕は一本の桜の木の下にいたサトミを見つけた あの日と同じ満開の桜の下にいる制服姿の彼女 サトミ… サトミは振り返るといつもの満面の笑みで僕に手を振った 汗と涙でぐちゃぐちゃになった僕はその場にへたりこんだ サトミ…ごめん ごめんなさい… 涙で歪んだ視界にぼんやり浮かぶサトミが空を見上げる 歪んだ視界の中に、サトミの姿はもうなかった 5 二日後 隣を流れる川下でサトミの変わり果てた姿が発見された 欄干から身を投げるサトミの姿の目撃情報が複数あったらしい あの時桜の木の下で見たサトミの笑顔は最後に僕に会いに来てくれたそれなのか それとも復讐を終えた恍惚とした表情だったのか 今となっては分かりようもない 僕はしばらく何も出来ないでいた ただただ毎日この公園に来てぼんやりと桜の木を眺めているだけの日々 サトミ、又一緒に暮らそうか あの時サトミが書いた手紙をポケットに入れ、そっと触った 桜の木の下から雲ひとつない青空を見上げる うるさいセミの声に 一本の飛行機雲が伸びている