KORODON
2 件の小説ミント
帰り道に始まるのは、無駄話、だ。 この先の人生で、思い返して、何らかの役に立つとは思えない、無益で無意味な、時間だ。 僕はその時間が好きだ。 「チョコミントのアイスってあるだろ?」 親友の尾野は言った。 取り出し口から購入したチョコミントのアイスを手に持って、包を剥がしている。 「あるね」 否定する理由もなく、同意する。僕の手にあるストロベリーアイスの匂いが、鼻付近で漂う。 「樫村、俺は考えたわけだ」 「くだらないことを?」 付け足した。 「いや、今後の人生が変わる……可能性がある重大なことだ」 「アイス一つで何を思いついたわけさ」 「チョコミントってよ、歯磨き粉みたいな味するだろ」 「そうだね。歯磨き粉の味がする」 その上、スースーと口の中を消毒されたような、透き通る感覚になる。僕はその感覚は好ましくはない。 「てことはだ。チョコミントってのは実質、歯磨き粉を食べてるってことだ」 「そうなるのかなぁ」 違う気がする。 「更に、だ。歯磨き粉を食べてるって事は」 「て事は?」 「歯磨きをしているって言っても過言ではない」 「尾野、残念ながらそれは過言だよ。30分睡眠を推奨するショートスリーパーの発言ぐらい、過言だ」 「まぁ聞けって。俺の話にはちゃんとした筋が通ってるからよ」 「仕方ないから聞いてあげるよ」 「いいか、チョコミントのスースーする感覚はな。食後にすっきりさっぱり爽やかな後味を残すんだ」 「そうなんだ」 「この後味……歯磨き後の後味と同じなんだ!」 「……つまり?」 「実質歯磨きしたってことだろ」 「そりゃどっちとも、ミントの成分が入ってるからね。スースーするよ。でもさ尾野。一つだけ重大な点を見逃してるよ」 「重大な点?」 「チョコミントには、チョコが入ってるでしょ。つまり、砂糖、だ」 「砂糖……」 「歯磨きをするのに、砂糖が混じってるんだ。歯磨き粉には、砂糖は入ってない」 「俺がそんなこと考えずに言ってると思ってたのか、樫村。勿論、俺は考えている」 「言ってみなよ」 「歯磨き粉ってよ、色んな種類があるだろ?ミントが主流で、他にはいちご味だったりブドウだったり」 「子供用のね」 「そう。その歯磨き粉にはちゃんといちごやブドウの味がするんだ。それと同じだ。チョコミントも、チョコの味がする歯磨き粉だと思えばいい。砂糖を食うにしてもどのみち、歯磨き粉と食ってんだからプラマイゼロだ」 「見事な暴論だ」 「完璧だろ?全人類チョコミントを食えばいいんだ。これで歯医者は廃業だな」 「歯磨きの代わりにチョコミントを食べるとしたら、逆に繁忙するかもね」 ストロベリーアイスを食べ終えた僕は、残ったスティックをゴミ箱へと捨てた。 尾野はチョコミントを舐めるでもなく、まるで歯を磨くように食している。 端的に言えば、行儀が悪い。 「これで今夜は歯磨きしなくていいぜ!」 自信満々に言う尾野は、恐らく歯を磨く事はないだろう。 「ちゃんと歯磨きしなよ」 と言うことしか、僕はできなかった。
「絶対にこれを忘れるな」
そう書かれた、一枚の紙を僕は持ち上げた。 それは、ベッドの下を掃除している時に発見したものである。 縦長の紙であり、無数の横線が引かれていることから、メモ用紙だとは分かった。 ただ、このメモ用紙が、何故ベッドの下にあるのか、何故このようなことが書かれているのか、何を目的に書かれたのかは分からない。 ただ一つ、わからないことが渋滞した中で、確実だと自信をもって言えるのは、 僕はこの紙を忘れている、ということだ。