身なり
金曜日の午後、ロンドンのビックベンのすぐ近く、スーツ姿の男とボロボロの身なりのホームレスが、言い争いをしていた。
「お前のそんな身なりで住むところなんかあるのかよ」
「ある」
「えー!あるの。その身なりで住むとこあるの」
近くにいた老婆が心配そうにボロボロの身なりのものを見つめる。
「でも、どうせダンボールハウスかなんかだろ。車も持ってないんだろう?」
スーツ姿の男はカバンを持ち替え、ポケットから車のキーを出し、赤いベンツに向かった。
その時だった。
急にボロボロの身なりの者が腹を抱えて笑い始めた。
そして、落ち着いた足取りで赤い軽自動車のすぐ後ろに停めてある、黒のフェラーリのヘッドライトが光った。
老婆の視線の先にはポケットに手を突っ込むボロボロの身なりの者が写っていた。
に乗り込み、言葉を放った。
「車を持ってない、か」
ボロボロの身なりの者は肩を震わせて笑った。
そしてフェラーリのドアを開ける。
「その赤いベンツ、いい車だな」
スーツの男が顔をしかめる。
「何が言いたい?」
エンジンがかかった。
ボロボロの身なりの者は窓から顔を出して言った。
「昨日まで“俺の車”だったんだ」
老婆が息を呑む。
「盗難届、もう出してあるから」
フェラーリはゆっくり走り去った。