8月32日

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8月32日

青と夏が好きです。 私が理想とする夏を書き綴るだけです。 夏に対するこの気持ちを吐き出したくて、私の夏が終わらないように、小説を書いています。

美しいあなたに夏を

俺は夏が好きだった。 “だった”と過去形なのは今は悲しい景色でしかないからだ。 だが、俺はあいつのために、杪夏のために、この美しい夏を守らなければならない。 俺は夏に囚われている。 8月31日午前8時 いつものように目覚め目を擦る。閉めていたはずのカーテンは母によって開けられており、まぶしくてたまらない。 今日は始業式で1ヶ月ぶりの学校だ。 睡魔と戦いながら支度をし、最寄り駅に向かった。 俺は夏が好きだ。夏は全てが美しく見えて、歩いているだけでも心が踊る。だから、夏が去るのが寂しかった。 最寄り駅に着き、一息つくと、 「縹、おはよう。」 そう俺に話しかけてくれたのは親友の杪夏。俺が夏を好きな理由は半分こいつだ。夏の青くて広い空を背景にした姿は誰が見ても美しいと思うだろう。そんな杪夏の姿が見れる夏が幸せだった。 「おはよう。 今日も、綺麗だな。」 夏の日差しに照らされている杪夏が本当に綺麗でポロッと言葉がこぼれてしまった。 「そうだね。今日は一段と空が綺麗だね。」 杪夏は、自分のことじゃなく空のことだと解釈したらしい。 「夏が去るのは、寂しいね。」 「そうだな。どんなに空が綺麗でも夏じゃなきゃ意味ないもんな」 空を見つめる杪夏は、なんだか泣きそうな顔をしているように見えた。 「ねぇ、縹。今日は学校行くのやめよっか。」 杪夏の突然の提案に驚いたが、良いな と思ってしまった。 「いいぜ。3分後に来る電車でこのまま真っ直ぐ、夏の端っこまで行こうか」 杪夏は多分、去っていく雲を追いかけたかったんだと思う。 「ふふ、夏の端っこかぁ。いいね、おしゃれだ」 俺たちは宣言通り電車に揺られ、終点で降りた。何も無い田舎町だったが、少し歩くと駄菓子屋があったからラムネを2本買った。 座るところがなかったから停留所の錆びたベンチに座った。しばらく言葉を交わさなかったが、この時間が心地よかった。 「僕たち、夏が終わったら16歳になるね」 最初に口を開いたのは杪夏だった。 そう言えばそうだ。俺たちは誕生日が9月で日にちも近い。 「そうだな。また大人に近づいていくんだな」 「僕はずっと15歳のままでいたいよ。理屈なんてないけど15歳が1番綺麗な歳に感じるんだ。」 また、杪夏は泣きそうな顔をしていた。 「俺は、お前が何歳だとしても綺麗だと感じるけどな」 今度はちゃんとした自分の意志で、しっかりと伝えた。 「ふふ、嬉しいな。縹が綺麗だって思ってくれるなら誕生日も悪くない気がしてきたよ。」 俺は何歳になっても、杪夏と一緒にいたい。 そんな言葉は伝えず大事に心にしまっ た。 夏の炎天の中を歩いていると、川を見つけ、涼もうということで川へ向かいラムネを飲んでいた。 「夏って感じでいいな。こういうことするの夢だった。」 「ふふ。あ、見て、ビー玉取れた!」 いつも大人っぽい杪夏は年相応の笑顔になり、ビー玉を数秒空にかざし見つめた後、俺に渡してきた。 「縹にあげるよ。夏を一緒に過ごした記念。縹のビー玉は僕にちょうだい。」 杪夏がキラキラしてるように見えて、それが嬉しい気持ちのままビー玉を交換した。 なのに。 俺が数十分川を歩き、少し水が深くなったから杪夏の元に戻ると、 杪夏は死んでいた。 心臓がうるさい。頭がクラクラする。 杪夏の傍にはぐちゃぐちゃのジップロックに入った市販薬が大量に散乱していた。 杪夏を仰向けにし、前髪をかき分ける。 眠るように死んでいる杪夏は、今まで見てきた杪夏の中で1番美しかった。親友の死を前にこんな感情が湧いてしまう自分が醜くてしょうがない。 俺は震える手でポケットに入れていたビー玉を取りだし、それで杪夏を映した。閉じ込められたようにビー玉に映る杪夏がとても綺麗で、 俺はビー玉を飲み込んだ。 喉に詰まって苦しい。嗚咽が止まらない。涙目のまま、「馬鹿だな、俺」って他人事のように考えていた。 そのまま意識を失い、自室のベットで目が覚めた。 8月31日午前8時に

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美しいあなたに夏を