野球大好き

6 件の小説

野球大好き

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鍵のかからない密室

タイトル 『鍵のかからない密室』 ⸻ 本文 その部屋には、鍵がなかった。 正確に言えば、鍵をかける必要がなかった。 古い洋館の二階、一番奥の書斎。 扉は内側からしか開かない構造で、閉めれば自然にロックがかかる。 外からはどうやっても開けられない。 ——その部屋で、館の主・久条 恒一(くじょう こういち)が死んでいた。 死因は刺殺。 凶器のナイフは、胸に突き刺さったまま。 部屋の中は荒れていない。 争った形跡もない。 窓は閉まっており、割れた形もない。 完全な密室だった。 ⸻ 現場に呼ばれた高校生探偵・**相沢 恒一朗(あいざわ いちろう)**は、部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。 「……静かすぎる」 警察官が怪訝そうな顔をする。 「静か? 死体があるんだぞ」 「いえ。音じゃない。“痕跡”が、です」 相沢は床を見た。 埃がうっすら積もっている。 だが——足跡が一つもない。 「犯人がこの部屋に入ったなら、必ず床に痕が残るはずです」 「最初から中にいたとか?」 「それなら、外に出られません。これは密室ですから」 全員が黙り込む。 相沢はゆっくりと、被害者の机に近づいた。 そこに、一枚の紙が置いてあった。 『私は、自分でこの部屋に入った』 遺書のような文面。 「自殺……か?」 刑事がつぶやく。 相沢は首を振った。 「いいえ。これは犯行声明です」 「は?」 「この文章を書いたのは、被害者本人。でも、意味は違う」 相沢は扉を指さした。 「この部屋、内側からしか開きませんよね」 「そうだ」 「でも逆に言えば——外から“閉める”ことはできる」 空気が変わった。 「被害者は、自分で部屋に入り、扉を閉めた。 そして——」 相沢は、胸に刺さったナイフを見た。 「殺されたのではなく、刺した人が“出ていない”だけなんです」 「どういう意味だ……?」 相沢は、静かに答えた。 「犯人は、最初からこの部屋に存在していなかった」 沈黙。 「凶器のナイフ。 これは、館に元々あった装飾用ナイフです」 「つまり……」 「被害者は、誰にも殺されていない。 でも、自殺でもない」 相沢は紙を裏返した。 そこには、細かくこう書かれていた。 『この部屋に入った瞬間、私はもう死んでいる』 「久条は、数日前に毒を飲まされていた。 発作が起きるタイミングを、自分で選ぶために、 この部屋に入った」 「じゃあ、刺し傷は?」 「死後に、自分で仕込んだ仕掛けです。 発作で倒れた体が、 天井から落ちるナイフに当たるように」 刑事は言葉を失った。 「……犯人は誰だ」 相沢は、はっきり言った。 「この館にいる全員です」 「なに?」 「毒は、少量ずつ。 毎日違う人間が、気づかずに盛っていた」 沈黙の中、相沢は続ける。 「これは殺人じゃない。 ——復讐の完成形です」 ⸻ END

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鍵のかからない密室

ラスト3メートル 5

第5話 「名前が呼ばれなかった」 公式戦の朝は、いつも空気が重い。 アップ前の円陣。 監督が、スタメンを読み上げる。 一人ずつ。 番号と名前が、淡々と呼ばれていく。 レンは、無意識にスパイクの先を見ていた。 FW―― 一枠目。 「風間」 胸が、少しだけ跳ねる。 二枠目。 「……」 一拍、間が空く。 「——佐伯」 その瞬間、 レンの世界から音が消えた。 呼ばれなかった。 自分の名前だけが、落ちてこない。 「以上だ」 監督の声で、現実に引き戻される。 ベンチ組が一歩前に出る。 レンは、 一歩、遅れた。 ⸻ ベンチ。 ピッチでは、試合が始まっている。 風間は、いつも通り迷いがない。 ボールを受け、 前を向き、 撃つ。 惜しいシュート。 スタンドがざわつく。 「……すげぇな」 誰かが呟く。 レンは、何も言わなかった。 ゴール前。 風間が外しても、迷わない。 次のプレーに、もう入っている。 ――あいつは、割る前提で走ってる。 自分はどうだ。 割れるかどうか、 確かめてから近づいていた。 ⸻ 前半終了。 スコアは0―0。 ベンチに戻る選手たちの息は荒い。 だが、空気は悪くない。 「神谷」 監督が、レンを呼ぶ。 「後半、行く」 一瞬、心臓が跳ねる。 「条件は一つ」 レンは顔を上げる。 「撃て」 それだけだった。 ⸻ 後半二十分。 レンはピッチに立つ。 芝の感触。 歓声。 全部が、少しだけ遠い。 最初のプレー。 パスを受ける。 視界が、広がる。 三メートル。 来た。 迷いが、喉まで上がる。 ――外したら? ――止められたら? ベンチに戻る未来が、一瞬よぎる。 だが。 監督の言葉が、頭をよぎった。 「撃て」 レンは、 考えなかった。 振り抜く。 ボールは、 ポストを叩いて外れた。 「あっ……」 歓声が、ため息に変わる。 でも。 レンは、立ち止まらなかった。 次のプレーに走る。 下を向かない。 ――今のは、割れた。 入らなかっただけだ。 ⸻ 試合は、引き分けで終わった。 ロッカールーム。 監督が、最後に言った。 「神谷」 レンは身構える。 「今日のシュート、  俺は評価する」 短い一言。 それだけで、 胸の奥が、少しだけ軽くなった。 スタメンは落ちた。 でも。 FWとして、落ちたわけじゃない。 レンは、そう思えた。 ガラスは、 もう音を立てている。 割れる日は、 近い。

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第4話 「撃たないという選択」 次の練習は、いつもと違った。 パス練も、シュート練もない。 監督はホイッスルを鳴らし、短く言った。 「紅白戦。  条件付きでやる」 選手たちがざわつく。 「FWは、シュート禁止」 一瞬、意味が分からなかった。 「正確にはこうだ」 監督はレンを見る。 「神谷、お前だけシュート禁止」 空気が止まる。 「……は?」 誰かが声を漏らした。 レンは言葉を失ったまま、監督を見る。 「ゴール前でボールを持っても、撃つな。  撃ったら即交代だ」 不公平だ。 意味が分からない。 レンの中で、反発が膨らむ。 「FWに、撃つなって……」 「だからだ」 監督は即答した。 「お前は、  撃てないんじゃない。撃たない選択をしてる」 胸を殴られたような感覚。 ⸻ 紅白戦が始まる。 レンは前線でボールを受ける。 いつも通り、視界は広い。 味方の動き。 相手のライン。 最適解は、すぐに浮かぶ。 ――パス。 ――ワンツー。 ――崩してから。 だが、ゴール前で違和感が生まれる。 選択肢が、消えない。 撃てないからこそ、 迷いがそのまま露出する。 風間が鋭い視線を送ってくる。 「……撃てないFWって、怖いな」 皮肉じゃない。 事実を言っているだけだった。 ⸻ 後半。 カウンター。 レンは最前線でボールを受ける。 三メートル。 いつもなら、迷う距離。 だが今日は―― 撃てないと決まっている。 選択肢は、二つ。 パス。 それとも、時間を作る。 レンは、一歩踏み込んだ。 撃つ動作に“入らない”ことで、 DFの重心がズレる。 一瞬の隙。 そこに、味方が走り込む。 ゴール。 歓声が上がる。 だがレンは、立ち尽くしていた。 ――今の、 ――撃てた。 確実に。 ⸻ 練習後。 監督がレンを呼び止める。 「気づいたか」 「……はい」 「お前は、  撃つ前に考えすぎる」 監督は静かに続けた。 「だから今日は、  考える余地を奪った」 レンは拳を握る。 「撃つ覚悟と、  撃たない覚悟は違う」 監督の目が鋭くなる。 「次は、  撃てる状況で撃て」 レンの胸の奥で、 何かがはっきりと形を持ち始めていた。 ガラスは、 もう“見えている”。 あとは―― 割るだけだ。

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第3話 「影と光」 翌週の練習試合。 レンは再現できなかったあのゴールの感覚を胸に、必死に走っていた。 しかし、グラウンドに現れたのは、いつもの顔ではない。 新入部員――風間レンジ。 高校1年にして、既に全国レベルの噂を持つFW。 シュートの威力、正確性、判断力。 全てがレンとは対照的だった。 ⸻ 風間のプレーは、まるで計算機のようだ。 ボールを持つと、最短でゴールに結びつける。 視界も判断も無駄がない。 しかも、自信に満ちた笑みを浮かべている。 レンは思わず息を飲む。 「……天才って、こういうことか」 試合が始まると、風間はすぐにその実力を見せつける。 前線でパスを受け、相手DFを翻弄し、シュート。 ゴールネットを揺らすたび、味方もレンも視線を奪われる。 ⸻ 試合後。 ベンチでレンが一人座っていると、風間が近づいた。 「神谷くん、結構迷うタイプだね」 風間は軽く笑った。 「でもそれって、面白いかも。  勝負の世界じゃ、迷いを力に変えられるやつは少ないから」 レンは返す言葉を探す。 思わず口をついて出たのは、 「……俺、次は迷わない」 風間は微笑むだけで立ち去った。 だが、レンの胸には、火花が散っていた。 ⸻ その夜。 レンは一人、部室でボールを転がす。 三メートル前のゴール。 ガラスの壁の前で、レンは考えた。 ――迷うことが、力になるのか。 ――いや、迷いを越えた先にしか、力はない。 目標ができた。 再現できなかったゴールの感覚。 今度は、自分の手で確実に奪う。 ライバルの存在は、恐怖でも嫉妬でもない。 自分の弱さを知るための鏡だった。 レンの決意は、 薄暗い部室に響く足音のように、 小さくも確かに、燃え上がった。

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第2話 「再現できない一撃」 前回のゴール―― レンの心にまだ鮮明に残っている。 あの一瞬、あの三メートル。 視界は研ぎ澄まされ、音が消え、 体が勝手に動いた。 でも―― 「もう一度、同じ感覚で撃てるか?」 それが、彼の問いだった。 ⸻ 放課後のグラウンド。 レンは1人でシュート練習を続けていた。 ボールはネットに吸い込まれたり、枠を外れたり、ばらばらだ。 「……うそだろ」 どうやっても、あの感覚は再現できない。 目で見て、体で感じて、タイミングも完璧なのに、 何かが足りない。 自分でも分からない“何か”が。 そこに、監督の声。 「レン」 振り向くと、いつもと違う鋭い目。 その目は、少し笑っているようで、 でも全部を見透かしているようでもある。 「ゴール前で迷うな。  FWは、撃つことに意味がある」 言葉はシンプルだ。 だが、レンの胸には刺さる。 なぜか、言われた瞬間、 心が熱くなる。 ⸻ 次の練習試合。 相手は地区大会の強豪。 レンはスタメンで出る。 試合開始。 クロス、スルーパス、カウンター…… あらゆるチャンスが訪れる。 でも、三メートル前になると、体が止まる。 頭では「撃て」と分かっているのに、足が動かない。 「……なんでだ?」 試合終了。 スコアは0−1の敗北。 ベンチで俯くレンに、再び監督が近づく。 「さっきのゴール、再現できなかったな」 「……はい」 「だから言ったんだ。  FWは迷う瞬間があっていい。   でもその迷いを越える覚悟が必要だ」 レンはうなずく。 心の中で、少しだけ何かが弾けた。 あの一瞬の感覚―― あれを再び手にするには、 ただシュートを打つだけでは足りない。 心も、覚悟も、体も、揃わなければならない。 夕焼けに照らされるグラウンドで、 レンは小さく拳を握った。 ――次は、必ず。 次は、再現する。

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第1話 「ガラスと三メートル」 ゴールまで、三メートル。 数字にすれば短い。 だが神谷レンにとって、その距離はいつも割れないガラスだった。 前半三十五分。 スコアは0―0。 右サイドからのクロス。 速すぎず、低すぎない。 FWのために落ちてくる、理想的なボール。 レンは一歩前に出た。 トラップは決まる。 正面。 キーパーは半歩遅れ、 DFの寄せも間に合わない。 ――撃て。 分かっている。 頭では、完璧に。 だがその瞬間、 レンの視界が異様に研ぎ澄まされた。 キーパーの重心。 DFの足の角度。 味方FWの走り込み。 全部が、数値みたいに並ぶ。 最適解が、見える。 ……そして、 最適解が多すぎる。 「……くそ」 迷った一瞬。 その一瞬で、 三メートルはガラスになる。 DFのスライディング。 乾いた音。 ボールは弾かれ、タッチラインへ逃げた。 「今のだろ!」 後ろから声が飛ぶ。 レンは歯を食いしばる。 違う。 “今の”じゃない。 “今しか”なかった。 ハーフタイム。 ロッカールームは静かだった。 「レン」 キャプテンが言う。 「お前、見えすぎてるだろ」 レンは顔を上げる。 「FWはさ、  正解を選ぶ役じゃない」 一瞬、胸がざわついた。 後半二十分。 また、こぼれ球。 三メートル。 スタンドの音が消える。 視界が、細くなる。 ――外してもいい。 ――止められてもいい。 奪いに行け。 レンは、考えるのをやめた。 右足を、振り抜く。 ネットが揺れる。 遅れて、歓声が爆発した。 「よっしゃああ!」 だがレンは、 喜びより先に、息が詰まるのを感じていた。 心臓が、うるさい。 ――さっきのは、何だ。 帰り道、夕焼けのグラウンド。 レンは思う。 三メートルは、 勇気じゃない。 覚悟の距離だ。 ガラスは、 割れる。 そう信じたい、 第1話の終わりだった。

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