鈴谷なつ

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鈴谷なつ

新人物書きです!

キスして

「おはよう」 「おはよう」 「……それだけ?」  逆に挨拶以外に何を返せばいいというのか。  それだけだけど? と返す俺に、彼女は不満そうに頰を膨らませる。 「何、ほっぺた膨らませて」 「かわいいでしょ」 「自分で言うなよ」  まぁかわいいんだけど。  それは悔しいから言ってやらない。 「かわいい彼女が拗ねています」 「うん?」 「彼氏がするべきことは何でしょう」  何だそれ。  とりあえず頭を撫でてみる。嬉しそうに目を細めた彼女は、ハッと我に返ったようにふるふると首を横に振る。 「ちがうの!」 「なに」 「もっとこう、あれ、あるでしょ!」  なんだよもう、とため息を吐くと、彼女は不安そうに眉を下げる。 「呆れちゃった?」 「呆れてないけどめんどくさい」 「うう……傷つく」  しょんぼりと落ち込む彼女がかわいくて、少し屈んで口元にキスを落とす。  驚いたように目を見開くと、彼女は嬉しそうに笑みをこぼした。 「……キス、してくれた」 「してほしかったんでしょ?」 「気づいてたの?」 「そりゃあもちろん」  からかったときの君の反応がかわいいから、わざと分からないふりをしてただけだよ。  そんなキザなセリフは言えないけれど、代わりにもう一度唇をそっと重ねてみせた。

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キスして

寝取られ彼氏とストーカー彼女

「はぁ〜、今日もかっこよかったなぁ、五十嵐くん」  彼女である日野梓がうっとりと呟くと、彼氏の黒木蓮が顔をしかめる。  ここまでは普通の彼氏彼女の光景に見える。でもこの二人は、ちょっと変わったカップルなのです。 「かっこよかったなぁ、って眺めてただけじゃん! そこは話しかけてこいよ」 「五十嵐空くんはうちの学校の宝だよ!? 話しかけるなんておこがましい!」 「空のどこが宝だよ。どこにでもいる普通の男子高校生だぞ?」  だったら俺の方がかっこいいし、という蓮の言葉に、私はうんうん、と頷く。  彼氏の嫉妬。これこそが普通のカップルだよ。  自己紹介が遅れました。私、水樹ののは、ここにいる二人、学校一の美少年黒木蓮と、学校一の美少女日野梓のお友達です。レンレンとあずにゃんはお似合いだと思うなぁ、と言って二人を無理矢理紹介したのが三ヶ月前。無事に美男美女カップルは成立したものの、私は知らなかったのです。  あずにゃんが、クラスでも超目立たない平凡男子、五十嵐空くんのストーカーだということを。 「それは蓮くんが、五十嵐くんのサッカーする姿を見てなかったから言えるんだよ!」 「見てたっていうか一緒にやってたわ! アイツ一回パスもらって、蹴って、シュート外しただけじゃん」 「レンレンはシュート決めてたよねぇ」 「えっ、そうなの? 五十嵐くんしか見てなかった」  あずにゃんの彼女らしからぬ発言に、私はおそるおそるレンレンを見やる。するとそこには、頰を染め、嬉しそうにするレンレンの姿が。 「はぁ……たまんねぇ」 「う、一応聞くけど何が?」 「だって梓のやつ、俺の彼女なのに空のことしか眼中にないんだぜ?」  こんなの、興奮するに決まってんじゃん。  当たり前のようにつぶやかれた言葉に、私は背中が凍るのが分かった。  この二人は一見美男美女のお似合いカップル。だけど、蓋を開けてみれば彼女は他の男の追っかけ、そして彼氏は寝取られで興奮する変態なのです。 「あー、そろそろ委員会行かなきゃだわ。またな、梓、水樹」 「いいなぁ、五十嵐くんと同じ委員会……!」 「せいぜい羨ましがれ」 「く、くやしい〜!」 「まったねー、レンレン」  レンレンが笑いながら去っていくと、悔しがっていたあずにゃんが、眉を下げて首を傾げる。さすが美少女、かわいい。 「ねぇののちゃん、今日の私大丈夫だったかな。変じゃなかった?」  あずにゃんはいつも変だよ、という言葉は飲み込んで、私は微笑む。 「恋する乙女って感じでちゃんとかわいかったよ!」 「ええっそれ大丈夫なの? 蓮くんにばれてないかな?」  本当は蓮くんのことが好きだってバレたら振られちゃう! とわたわたするあずにゃんは、同性の私から見てもとってもかわいい。 「レンレンは鈍いから大丈夫だよ」 「サッカーのときもね、五十嵐くんがかっこよかったのは本当なんだけど、蓮くんもかっこよくて思わずきゃーって叫びたくなっちゃった…!」  あずにゃんは頰を染めながら嬉しそうに語る。それから部活の昼練習に行かなきゃと、あずにゃんが席を立つのとほぼ同時に、私のスマートフォンが着信を告げる。 『俺の彼女、かわいすぎん?』 「あずにゃんは今日もかわいかったねぇ」 『空について語るときの表情とか、本当嬉しそうでめちゃくちゃかわいいし、一瞬でいいから俺のことも見てくれねぇかな……』 「でも五十嵐くんのことを好きなあずにゃんが好きなんでしょ? 難儀な性格だねぇ」  そう、この二人、なんと両想いなのです。  二人ともちょっと変な性癖をこじらせた、外面だけいいカップルかと思いきや、ちゃっかりお互い想い合っているのだからお似合いというわけです。  あずにゃんのかわいさを存分に語るレンレンの話を聞きながら、私は空を見上げ、普通の彼氏が欲しいなぁと思うのでした。

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