夢
「あんたの長所と短所を教えて。」
誰の声かも、ここがどこかも、私が存在しているのかも理解できなかった。
だからこそ、その質問は私に向けたモノだとすぐに気づけなかったのだろう。
面接でよく聞く言葉。自分自身に興味のない私は、自分の長所と短所について考えるのは小学6年生の道徳の授業以来のはずだ。
現在中学3年生の私、周りからはよく大人っぽいとか賢いと言われる。
まあ、そこを長所と言っておけばいいか。
「友達や先生からは大人びているとよく言われます。」
短所は.....
私は人を疑いすぎる傾向がある、例え相手が10年付き合った友達でも
「このケーキ美味しいよ、絶対食べてみてよ。絶対ね。」
と言われると、毒を盛っているんじゃないか?とか非現実的な想像を広げてしまう。
「私の短所は、人を疑いすぎてしまうことです。」
人を疑う?そうだ、まずここはどこで、どういう状況なのだ。
目前には、面接官には相応しくない部屋着のような服装の缶ビールを持った男がいる。
先ほど質問して来たのもこいつだ。
「これが面接で、俺が面接官だと思う?」
思考している最中にいきなり話かけられたから驚いて吃ってしまった。
「う、お思いませんよ。あの、ここがどこなのか説明できませんか?」
少しばかり沈黙
男が目を見つめてくるからこちらは逸らしてしまった。
「ここは、あんたの夢の中。」
少し、うん。理解し難い。
この男が言いたいのは、つまり明晰夢ということか?
(明晰夢とは、夢であることを自覚しながら、みている夢の事である。)
まあ、例え明晰夢だとしても現実世界には影響はない。さっさと夢から覚めて朝の準備でもしようか。
「あんたは自分の長所を伸ばし、短所を活かしたくないのか?」
予想できない、いきなり話しかけてくる男。
そういえば、話の始まりはこれだ。
確かに、長所はもっと伸ばし短所は活かすことで多才な人間には近づけるかもしれない。
だが、
「このままでいいです。刺激より安定が好きなので。」
男はつまらなさそうに口を“い”の形にしている。
「いつか、あんたみたいなやつでも気づくことができるよ。これは、助言だからな。」
その男の声を掻き消すように鳴るモノ。
ピピピピピって
目が覚めた。いつも通りの時間に
音の正体は目覚まし時計、そうだろうな。
普段刺激を求めない私だが、初めて明晰夢を見たことで少し楽しみを味わえた。
あの礼儀のない男に賛成するわけではないが、長所と短所の活かし方について考えていると、いつのまにか一点だけを見つめていた。