メア
2 件の小説ティータイム
「ティータイムが始まっちゃう!」 おままごとのティーカップや皿などを腕に抱え、廊下を走り始めた3歳の娘に、私はため息をついた。 この前、うさぎや猫が出てくる不思議な国の話をテレビで一緒に見たところ、ティータイムのシーンが印象に残ったみたいで、ここ最近はずっとこの様子だ。 どうにか、直せないのかな… 私は、娘とダイニングテーブルに雑に座らせられてある猫やうさぎのぬいぐるみ、皿に散りばめられたグミやお菓子を見て、考え込んだ。 私は、そろそろ晩ご飯の準備をしなきゃいけなく、キッチンの辺りを見渡していると、パンケーキの粉が入った袋を見つける。 賞味期限がもうすぐで切れそう…あっ!そうだ! 私は、パンケーキの袋を持ちながら、娘に近寄る。 「ねぇ、ママとティータイムしない?」 娘は私の姿を怪しげに見つめ、少し笑顔になり、大きく頷く。 「いいよ!うさぎさん?ねこさん?」 「ママは客じゃなくて、食べ物を作る人なの」 その言葉に、娘はきょとんとするが、私は話を続けた。 「ママと一緒に、食べ物を作ってうさぎさんに振る舞う!ってのは、どうかな…」 「楽しそう!」 満面の笑みでるんるんな娘の姿に、私は思わずニヤけた。 一回はしてみたかった子供とのお菓子作り、棚から材料とかの必要な物を取り出して、娘にエプロンに付ける。 まだ娘は卵を割った事がなかったり、初めての事が多かったが特に大きなハプニングもなく、ケーキの生地が焼き上がった。ケーキの生地にクリームを塗る娘は、不器用さが出てしまい、手や腕などにクリームを付けながらも、綺麗に塗る事ができ、残りはデコるだけだった。 「何か描きたいのある?」 そう言うと、娘は少し悩み始めたが、すぐに チョコペンで何かを描き始めた。 * * * 「ただいま!」 旦那が急ぎながら、ドアと鍵を閉めると、目の前にねこのカチューシャを付けてニヤリと笑う私を見て、わっ!と声を出し、目を丸くしながら驚いた。 「はいこれ」 私はある物を差し出し、旦那に渡した。 リビングへ向かうと、可愛い水色のワンピースと黒いカチューシャを付け、大きな箱を抱えた娘がいた。 「うさぎさん!いらっしゃいませ!」 「う、うさぎさん?」 困惑しながらも旦那は大きな箱を優しく持ち、机に置き、慎重に開け、ケーキを取り出す。 そのケーキの真ん中には、三人の似顔絵が書いてあった。 「えぇ!なにこれ!」 「いつも急いでるうさぎに、ティータイムのご招待です」 旦那の肩に手を置き、私は旦那を見つめながら話した。 旦那は笑いながら涙を浮かべ、私と娘を抱きしめた。 その瞬間、娘は何かを感じたかのように私と旦那の笑顔を真っ直ぐに見つめた。 まさか、それが理由で貴方がパティシエになるだなんて思ってもみなかった。 引越しのトラックが走ってくのを見つめていると、私の目の前に大きくなった貴方の背中が現れる。 「トラック、もう行った?」 「うん。さっき行った」 「ちゃんと運んでくれるか心配だなー」 「私は貴方がしっかり目的地へ行けるかが心配かなー」 「もー、3歳の頃とは違って、今の私はしっかり者なんだからね。……ありがとうね。豪華なケーキとパティシエ姿を振る舞えるように頑張るから、応援しててね」 「もちろん。頑張ってね」 「うん!」 返事をすると、車のドアを開けて乗り込み、エンジンをかける。 「じゃあ、またね!」 車の窓を開けて、手を振り、車を発車させる。 車が見えなくなるまで、私は満面の笑みを浮かべながら手を振っていると、引越し準備を手伝っていた旦那が急いで家から飛び出して、手を振った。 - あとがき - 初めまして! 今回、お題に初挑戦しました。お題のティータイムについて、じっくり考え、悩みながらも書き上げることが出来た大切な作品です。 ティータイムと言えば、不思議の国のアリスだと思い、登場人物の娘はアリスをモデルに、ママは笑う事が多いためチェシャー猫をモデルに、パパは急いでる姿が多いため白うさぎをモデルに書き上げました! このあとがきを読んだ後、もう一度話を読んでみたらまた違う楽しさを感じれるかもしれませんね。 最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
冬の音
彼氏が突然、若年性アルツハイマー型認知症になってしまった。 まだ、私のことも覚えているけど、それ以外のことは少し分からない。 不安でいっぱいの中、突然彼は私に今のうちに思い出を作ろうと言った。 そのため今日は、彼との思い出作りに少し遠くへ外出をした。 普段、お家でのんびり過ごすことが多いため、彼と私は少しぎこちなかった。 「ごめんね…迷惑かけて」 「全然大丈夫だよ。私のこと忘れてないから」 不安そうな彼の顔を優しく見つめながら、私は呟いた。 街中には白くて小さな雪が降ってたり、見渡せばどこにもクリスマスの商品が並んでいたり、イルミネーションが点灯されてたりなど、冬とクリスマスの訪れをたくさん感じた。 そんな中、街中の色んな所から素敵なピアノの音色がスピーカーから響き始める。 「ねぇ。このピアノの音綺麗だね」 突然の彼の言葉に、私は驚いて目を丸くするが、すぐに微笑み、口を開く。 「そうだね…とっても綺麗な音だね」 言い終えると、私は彼の手を優しく包み、握り締め、こう思った。 確かに、この音色とっても綺麗だね。 でもね、 この音色、君が弾いてたピアノから出てたんだよ? まだピアニストだった彼の姿を思い浮かべながら、そう思った。