『誓いの影に、あなたを』
第一章:出会い ――「護る者」と「護られる者」
セレフィーナは政略結婚によって愛のない公爵の公爵夫人として城に迎えられた日、
彼女の前に一人の若き騎士が進み出た。
「レオニス。あなたの護衛を命じられました」
黒髪に、まっすぐな瞳。余計な言葉はなく、ただ誠実さだけが滲む声。
セレフィーナは、わずかに微笑み、こう答えた。
「……どうか、私のそばにいてください」
それは命令であり、同時に、彼の人生を縛る“誓い”でもあった。
第二章:近すぎる距離
戦のない日、レオニスはいつも彼女の数歩後ろを歩いた。
廊下、庭園、礼拝堂。
彼女が立ち止まれば、彼も止まる。
彼女が疲れれば、彼は何も言わず、さりげなく人の流れを遮った。
言葉はほとんど交わされなかった。
それでも――
彼女が不安な夜、礼拝堂で彼の祈る姿を見つめ、
彼が小さな傷を負えば、彼女は誰にも知られず祈りを捧げる
“想ってはいけない”と分かっているからこそ、
二人の想いは、言葉よりも深く、静かに積もっていった。
第三章:ただ一度の心
ある夜、嵐の中で彼女が礼拝堂へ向かおうとした時、
危険を察したレオニスが、彼女の前に立った。
「……今夜は、外へ出るべきではありません」
セレフィーナは、初めて彼の名を小さく呼んだ。
「レオニス……あなたは、私を“公爵夫人”として守っているの?」
彼は一瞬、言葉を失い、それでも騎士として答えた。
「……私は、あなたをお守りしています」
その一言の奥に、言えなかった想いのすべてがあった。
二人はそれ以上、何も言わなかった。
だがその夜、互いの心は、確かに触れ合ってしまった。
第四章:露見
二人の“視線”と“沈黙”に、公爵と両親、そして貴族たちが気づき始めていた。
やがて、「不適切な情があるのではないか」という噂が
城で仕えている者、やがて国中に広まってしまった。
レオニスは呼び出され、
セレフィーナの前から連れ去られる。
セレフィーナはレオニスを想うあまり必死に抵抗した。けれどレオニスはセレフィーナを見つめ、抵抗もせず騎士としての誠実さを忘れてはいなかった。ただ、レオニスは自分が抵抗することによって関係がより深刻なものだったとセレフィーナにも罪が被せられ、自分のせいで愛する人の人生を奪いたくはない。ただ、それだけだった。
最後に、ただ一言だけ、彼は彼女に向かって告げた。
「……セレフィーナ様。
あなたをお守りできたことだけが、私の生涯の誇りです。」
それ以上、言葉を交わすことは許されなかった。
セレフィーナは最後まで抵抗を止めなかった。
そこで、セレフィーナはレオニスを想い抵抗を必死にしている時、気がついた。そう、レオニスが自分を想ってしたあの騎士としての誠実さとその行動に。
セレフィーナはその場に泣き崩れてしまった。
第五章:残された“証”
それからまもなく、城からレオニスの名は消えた。
誰も彼について語らず、記録にも残らなかった。
けれど、ある日――
彼の私室が整理される際、セレフィーナのもとへ、ひとつの品が密かに届けられる。
それは、小さな銀の紋章。
裏には、細く刻まれた言葉があった。
「誓いのすべては、あなたに。」
それは、彼がこの世に残した、ただ一つの証だった。
セレフィーナはその証をそっと握り、胸にあてその場で静かに涙を流した。たが、あの時とは違いセレフィーナの顔には彼を想う暖かな微笑みがあった。
第六章:生涯の祈り
それ以降、セレフィーナは生涯、変わらず“完璧な公爵夫人”として生きた。
誰にも弱さを見せず、誰にも恋を語らず。
ただひとつだけ、変わらない習慣があった。
――夜、礼拝堂に白百合を供えること。
人はそれを、敬虔な信仰の証だと思っていた。
けれど本当は、
それがレオニスへの、ただ一つの弔いだった。
彼女は祈る。
「あなたを愛したことだけは、罪にしないでください…。あなたを愛したことは、私の誇りです。」
その祈りを、聞く者はいない。
だが、彼女の胸の奥には、確かに“愛された記憶”が生き続けていた。