鴉羽蓮司
116 件の小説鴉羽蓮司
昨年から少しずつ書き進めている小説のテーマは「武道」です。私がこれまでに学び、経験してきた少林寺拳法や武道の哲学を物語に込めています。主人公が己を磨きながら困難を乗り越える姿を描く中で、「力」と「正義」のバランスや、人とのつながりの大切さといった普遍的なテーマに挑んでいます。
再生の拳 ep51 如月対影虎
再生の拳 ep51 如月対影虎 闇に潜む闘争の序章 志賀 「まさか……これほどまでとはな。」 志賀は唇を噛みしめながら、周囲を見渡した。敗北の気配がじわじわと肌にまとわりつく。自分の力をもってしても、この状況を覆すのは難しい。 「どうやら……今回は武が悪いようだ。」 悔しさを滲ませながらも、冷静に状況を受け入れるような声音だった。 森田 「どうした? まさか負けを認めるのか?」 森田はわずかに口角を上げる。敵を挑発する余裕すら見せながら、じりじりと詰め寄る。 「それなら、こちらも無闇に事を荒立てる必要はないが……?」 ほんの少しでも相手が退けば、こちらに有利な交渉ができる。森田はその隙を逃さぬよう、言葉を研ぎ澄ませた。 影虎 「おいおい、待てよ。」 闇の中から、獰猛な笑みとともに現れたのは影虎だった。まるで闇に溶け込むような気配を放ちながら、志賀の肩を軽く叩く。 「志賀の兄貴よ。このまま引き下がるってのか? こんなところで汚名を残していいのかよ?」 彼の目には鋭い光が宿っていた。本部への昇格、それは彼らにとって何よりの栄誉。ここで敗北を喫するわけにはいかない。 志賀 「そうだな……影虎、まだお前がいたな。」 彼の目が影虎を見据えると、微かに笑みが浮かんだ。 「この閉塞した暗闇なら、お前にとっては優位な舞台だ。」 影虎 「そうだろ? 俺の”忍躰道”なら……ここにいる全員、始末できる。」 影虎はニヤリと笑い、ゆっくりと拳を握りしめた。まるでこの戦場すら自らの領域に変えてしまうかのような自信に満ち溢れていた。 如月 「ほう……それは随分と大きく出たな?」 影虎の挑発を前に、一歩踏み出したのは如月だった。彼の目には鋭い闘志が宿り、抑えきれぬ衝動が滾っていた。 「なら、俺と勝負しようじゃないか?」 唇の端をつり上げ、不敵な笑みを浮かべる。 「先輩方や仲間が活躍してるのを見てるだけってのもな……正直、フラストレーションMAXだぜ。」 影虎 「……おいおい、白帯じゃねえか?」 彼の目に映るのは、如月の腰に巻かれた白い帯。まるで経験の浅い未熟者を相手にするような軽蔑の視線を向けた。 如月 「そりゃあな。」 如月は涼しげな表情を浮かべながら、ゆっくりと拳を握りしめる。 「でもな、その白帯に負けたら……もう恥ずかしくて生きていけねえだろ?」 その言葉は挑発ではなく、確信だった。目の前の相手を打ち砕く自信が、彼の全身から滲み出ていた。 影虎 「……何をっ!」 影虎の表情が一瞬にして険しくなる。その時、如月は静かに足を引き、低く構えた。 如月 「さあ、始めようぜ。」 その構えは――空手。 影虎 「空手か……。」 彼の目がギラリと光る。 互いの気がぶつかり合い、戦いの幕が静かに上がる――。 影虎 「ほぉ……空手ねぇ。」 影虎は薄ら笑いを浮かべながら、足元に意識を集中させた。闇に溶け込むような気配をまとい、まるで獲物を狙う獣のように低く構える。 「でもなぁ……空手ってのは、正々堂々と戦うもんだろ? 俺の”忍躰道”とは相性が最悪なんじゃねぇか?」 如月は影虎の言葉を受けても、まったく動じる気配を見せなかった。むしろ、その言葉を楽しむかのように軽く肩を回す。 如月 「相性が最悪? そりゃあどうかな。」 静かに息を吐き、己の中心を見つめる。影虎がどんな手を使おうと、こちらにはこちらの戦い方がある。 「俺は、どんな相手だろうが”殴れる距離”さえ掴めばいいんだよ。」 その瞬間、如月の全身から発する圧が変わった。闇の中でなお、その存在が研ぎ澄まされていくのが感じられる。 影虎 「……へぇ。面白ぇじゃねぇか。」 影虎は舌打ちしながら、すぅっと背筋を伸ばした。 「なら……見せてやるよ。“忍躰道”の真髄をな!」 その言葉と同時に、影虎の姿がふっと闇の中へと消えた。 森田 「……ちっ! やっかいな技だな。」 影虎の忍躰道は、影のように動き、相手の視界から一瞬で消え去る。光を巧みに利用し、相手の死角へと潜り込む暗殺武術。 如月の周囲に気配が渦巻く。右か、左か、それとも背後か――。 しかし、如月は微動だにしなかった。 志賀 「……おいおい、本当に動かねぇぞ。まさか恐怖で固まったのか?」 志賀が皮肉めいた笑みを浮かべるが、森田は目を細めた。 森田 「いや……違うな。アイツ、“待ってる”んだ。」 次の瞬間―― 「そこだっ!」 如月の拳が弾丸のように突き出された。 「ぐっ……!!」 影虎の姿が、闇の中から弾き出されるように現れる。腹に拳を叩き込まれ、そのまま数歩後退した。 「くそっ……!」 影虎 「……なんで、俺の動きが読めた?」 影虎は呻きながら如月を睨みつける。闇を利用して優位に立つはずだった。しかし如月は、完璧に彼の動きを察知し、一撃を叩き込んだのだ。 如月 「簡単なことさ。」 如月は拳をゆっくりと握り直す。 「お前が闇に溶け込んだ瞬間、“音”が変わった。」 影虎は一瞬、目を見開いた。 如月 「忍躰道がどんなに優れた技だろうと、人間は完全に気配を消すことはできねぇんだよ。お前は素早く移動する時、わずかに空気を切る音を発してた。それを聞いた瞬間――“そこ”にいるってわかったのさ。」 影虎は拳を握りしめる。まさか、自分の技がこんな形で看破されるとは思わなかった。 影虎 「……チッ。なるほどな……」 だが、影虎はまだ諦めていなかった。 「なら……次は”見えない速さ”で仕留めるだけだ。」 一瞬で体勢を立て直し、さらに闇に紛れようとする影虎。しかし―― 「その前に……こっちから行かせてもらうぜ!」 如月が地を蹴り、一気に間合いを詰める! 戦いは、ますます激しさを増していく――。
復讐の拳 ep5 影霞の修練 2
復讐の拳 ep5 影霞の修練 2 影霞——無力化の極意 祖母が再び構えを取る。 「いいかい、琴音。影霞はただ投げる技じゃない。敵がすぐに立ち上がれるようじゃ意味がないんだよ。」 「……でも、投げられた時点で戦闘不能になるのでは?」 琴音の疑問に、祖母は静かに首を振る。 「相手が並の格闘家ならね。でも、本当に危険な敵は、倒れた瞬間に反撃してくる。」 祖母は鋭い眼差しで琴音を見据えた。 「だから、影霞は“仕留める”ところまでが一つの流れなんだよ。」 「……なるほど。」 琴音は息をのみ、拳を強く握る。 今までの修行でも、単なる投げ技だけでは相手を制圧しきれないことは経験してきた。 「具体的には、投げと同時にどこを狙うんですか?」 琴音の問いに、祖母は微笑む。 「それをこれから学ぶのさ。」 そう言って、祖母は琴音の手を取り、ゆっくりと動きを見せる。 「まず、相手を投げる瞬間——」 祖母は琴音の腕を取って軽く崩し、次の瞬間、琴音の肩口を指先で突いた。 「っ……!」 ビリッと肩に痺れが走り、一瞬、腕の感覚が鈍くなる。 「これは、秘孔技の一つ“霊門穴”を狙ったものさ。」 琴音は驚きに目を見開く。 「こんな一瞬の攻撃で……?」 「そうさ。この場所を突かれると、腕がしばらく動かなくなる。相手がナイフを持っていたら、どうなると思う?」 「……武器を握れなくなる。」 「そういうこと。つまり、影霞はこう使うんだよ。」 祖母が再び動いた。 琴音の腕をとり、流れるような動きで投げに入る。 ——その瞬間、祖母の指が琴音の脇腹を軽く押した。 「っ!」 今度は体の力が抜け、思わず膝をつく。 「ここは“帯脈穴”っていう秘孔さ。ここを突かれると、一瞬、体の力が抜ける。」 「……これが、本当の影霞。」 琴音はゆっくりと立ち上がりながら呟いた。 「そうさ。投げるだけじゃダメなんだよ。投げる瞬間に秘孔を突いて、相手の戦意を完全に断つ。」 祖母は琴音の肩に手を置き、静かに語る。 「影霞はただの投げ技じゃない。相手の戦闘能力を奪うための技なんだよ。」 琴音は拳を握りしめた。 「……教えてください。この技を完璧にするために、もっと修行したいです!」 祖母は微笑む。 「よろしい。それじゃあ、次の段階に進もうか。」 そして—— 琴音の影霞の修行は、新たなステップへと突入した。
復讐の拳 ep4 影霞の修練 1
復讐の拳 ep4 影霞の修練 1 「さあ、実際に動いてみな。」 祖母の合図とともに、琴音は構えを取る。 だが、どこかぎこちない。 「……重いね。」 祖母が小さく息をつく。 「影霞は、敵の力を受け流し、重心を奪う技だよ。力をぶつけてはダメさ。」 琴音は歯を食いしばる。 「……でも、ただ流すだけじゃ、相手を倒せません。」 「その通り。でも、強引に投げるのは違う。いいかい? 力ではなく流れを掴むんだ。」 祖母が琴音の腕を取り、ゆっくりと動きを示す。 「ほら、こうやって相手の動きを感じるんだよ。敵が踏み込んできたら……」 ——スッ 祖母の動きはまるで風のようだった。 琴音の足がふわりと浮いたかと思うと、次の瞬間には地面に投げ出されていた。 「くっ……!」 衝撃はほとんどなかった。だが、自分の意志とは関係なく体が崩されたことに、琴音は驚く。 「わかったかい? 力じゃない。流れに乗るのさ。」 祖母は微笑みながら手を差し出した。 「もう一度、やってごらん。」 琴音はゆっくり立ち上がり、再び構えを取る。 「……流れを掴む。」 祖母が再び踏み込んでくる。 今度は力で抗わず、祖母の動きを感じながら体を動かした。 ——スッ 「!」 琴音の手が自然と祖母の腕に触れ、流れるように導く。 「そうだ。」 次の瞬間、祖母の体がふわりと宙を舞った。 ——ドサッ 「やった……?」 祖母はゆっくり起き上がり、満足そうに微笑んだ。 「ふふ、悪くないね。初めてにしては上出来さ。」 琴音の心に、ふつふつと嬉しさが込み上げる。 「……ありがとうございます!」 「だが、これで終わりじゃないよ。」 祖母の声が急に鋭くなる。 「影霞の本質は、ただ投げることじゃない。投げと同時に、相手を無力化すること。」 琴音は息をのむ。 「いいかい? 影霞が本当に完成するのは、投げる瞬間に秘孔や関節を突いたときだ。」 「つまり……投げるだけじゃ、まだ未完成?」 「そうさ。だから次は、そこを学ぶよ。」 祖母が琴音に向かって構えを取る。 「さあ——ここからが本当の修行だ。」 次なる修練へ 琴音は拳を握りしめ、深く息を吐いた。 影霞の真の形を身につけるために—— 自分は、さらに先へ進まなければならない。
守護の拳【本編】 ep39 真相-3
守護の拳【本編】 ep39 真相-3 鴉羽は苦々しい表情を浮かべながら、拳磨に向き直った。そして、低く抑えた声で重々しく言葉を紡いだ。 「だがな、拳磨君……鬼神会を巡る運命の歯車は、既に君自身をも巻き込み、いまや全てを飲み込もうとしている。」 その瞳には深い焦燥が宿り、言葉の一つ一つが胸に重く響いた。 「もう猶予はない。鬼神会の触手は、すでに政界、財界、そして司法にまで深く侵食しているんだ。連中は国民から税金を吸い上げ、その膨大な国家予算が奴らの懐に流れ込んでいる。」 拳磨は言葉を失った。その規模の大きさが信じられなかったからだ。 「……君も 【特別会計】 という言葉を聞いたことがあるだろう?」 鴉羽の問いかけに、拳磨は無言でうなずいた。それが国家予算の闇を隠す仕組みの一つだという話は、断片的に聞いたことがあったからだ。 「だが、それは表面の話に過ぎない。今の与党の議員たちは、全員がC国マフィアを通じて鬼神会の罠に嵌められている。ハニートラップだ……。奴らは議員一人一人の恥ずかしい弱みを握り、言いなりにしている。」 鴉羽は苦しげに吐息をつき、その目には怒りが滲んでいた。 「鴉羽は険しい表情のまま、拳磨に向き直り、低く重い声で語り始めた。 「拳磨君、C国が流出させた『Cウイルス』については聞いたことがあるだろう? 表向きは、ただの風邪ウイルスだとされているが、真実はそんな単純な話ではないんだ。真に恐ろしいのは、その背後に隠された『ワクチン』の存在だ。」 拳磨は困惑した表情を浮かべる。鴉羽は続ける。 「そのワクチンには、性欲を抑制する副作用を持つ成分が意図的に含まれている。これがどういう意味を持つか分かるか? 人口減少を引き起こし、やがてこの国を弱体化させるためのものだ。言わば、国全体を静かに、確実に滅ぼす兵器として利用されている。」 拳磨は鴉羽の言葉に息を飲む。そのあまりに突飛でありながら、彼の語る真剣さが否応なしに現実味を帯びさせていた。 「しかも、この計画は単なる鬼神会とC国の陰謀ではない。既にC国に弱みを握られた日本政府がこの計画に加担しているんだ。」 「な……日本政府が……?」拳磨は言葉を失った。 「そうだ。」 鴉羽は拳磨の目をじっと見つめ、続ける。 「表向きは国民を守るため、健康を守るためという名目でワクチンを推進しているが、その裏でC国と手を組み、この国を乗っ取る準備を進めている。人口を減らし、日本人という存在そのものを消し去る……そして最終的には、この国をC国の一部として支配する計画だ。」 拳磨は衝撃を隠せず、震える声で問いかけた。 「そんなこと……そんなことが本当に起きているなんて……信じられない……」 「信じるか信じないかは君次第だが、これが現実だ。そして、この現実に俺たちは立ち向かわなければならない。」 鴉羽の声には、揺るぎない決意と怒りが込められていた。その言葉の重さが、拳磨の心にずしりと響く。彼は、自分が巻き込まれている戦いの深さと危険性をようやく実感し始めていた。 「それだけじゃない……邪魔者は誰であろうと暗殺する。U国と懇意のあった元A首相……。彼は現政府のC国の犬にとって都合が良い者ではなかった。彼も、3年前に連中に命を奪われた。口封じという名の暗殺だ。」 その言葉が放たれると、室内の空気が一気に張り詰めた。拳磨は信じられない思いで鴉羽を見つめた。 「鬼神会は、この国そのものを浸食し続けている。元々、そのトップだった鬼神鉄心はC国の出身で、本名は『凶鬼天』だ。最初、彼は自衛隊を乗っ取ろうと企んで、日本人になりすまし入隊したが、俺と竹内の手によってその正体を暴かれ、失敗に終わった。その後、裏社会へと転身し、鬼神会を立ち上げた。奴らのやり口は卑劣で冷酷、容赦がない。もし俺たちが動かなければ、この国は確実に滅ぼされる。だからこそ、君には覚悟を決めてもらわなければならない。」 鴉羽の声には、深い覚悟と哀しみ、そして鬼神会に立ち向かうための強い決意が込められていた。 拳磨は、鴉羽の壮大な話の全容に圧倒され、ただ唖然とするばかりだった。目の前にある現実が、あまりにも非現実的だったからだ。 「この国の自衛隊組織だけは、まだ鬼神会の魔手に侵されていない。唯一、純粋に国家を守る機関だ。俺と竹内で、何とかその崩壊を食い止めている状態だが……正直、いつまで持つかわからん。」 鴉羽の声は深刻そのもので、拳磨は彼の言葉の重さに押し潰されそうだった。 鴉羽はそう言うと、壁に取り付けられた隣のパネルを押した。 次の瞬間、隠されたパネルが音を立てて開き、その奥に無数の銃器や武具がずらりと並んでいるのが現れた。光を浴びたそれらは、異様な威圧感を放っていた。 「拳磨君、立てるか?」 鴉羽は拳磨に目を向け、静かに言った。 「……見せたいものがある。ついて来てくれ。」 その声には、どこか厳しさと覚悟が混じっていた。 拳磨は無言でうなずき、促されるままに立ち上がった。鴉羽は拳磨を連れて、エレベーターに乗り込む。エレベーターが地下に向かって下降していく間、重苦しい沈黙が二人を包んでいた。 やがてエレベーターの扉が開くと、拳磨の目に飛び込んできたのは、広大な地下施設だった。そこにはリングを中心に、様々な鍛錬器具、そして日本刀や槍、西洋剣に至るまで、膨大な種類の武具が整然と配置されていた。その光景は、まるで戦士のための秘密基地のようだった。 「拳磨君。」 鴉羽の声が施設内に響く。 「君の安全を確保するため、当面は自衛隊を休職してもらう。この施設でトレーニングと生活をしてもらうつもりだ。安心しろ、必要な手続きはこちらで全て行う。だが……」 鴉羽は鋭い眼差しで拳磨を見据えた。 「平穏な生活を取り戻せるかどうかは、生き延びられるかどうかにかかっている。そして正直なところ、現状の君の力では、鬼神会の幹部たちには到底太刀打ちできない。この武道場で日夜トレーニングを重ね、力をつけてもらうしかないんだ。」 拳磨はごくりと唾を飲み込み、黙ってうなずくしかなかった。 鴉羽はふと視線を壁に向けると、そこに掲げられているモニターの前に立った。そして、モニターに向かって話しかけた。 「悠華、聞こえるか?」 その呼びかけに応じるように、モニターが光り、画面には悠華と呼ばれる少女が映し出された。まだ中学生くらいの若さだが、その瞳はどこか冷静で鋭い。 「話は聞いていたな。手続き関係、諸々頼む。」 鴉羽の指示に、悠華は軽くうなずきながら短く答えた。 「了解。」 鴉羽は拳磨に向き直り、悠華のことを説明した。 「彼女はまだ中学生だが、天才ハッカーだ。この作戦では、情報収集の要として活躍してくれている。」 拳磨は驚きの連続に頭が追いつかず、深いため息をつきながら呟いた。 「もう、何がなんだか分からなくなってきた……これ、夢じゃないですよね?」 自分の言葉を確かめるように、拳磨は思い切り自分の腕をつねった。その痛みが、彼に一つの確信を与える。これが現実である以上、逃げることはできない。そう、彼は新たな覚悟を胸に刻もうとしていた。
守護の拳【本編】 ep38 真相-2
守護の拳【本編】 ep38 真相-2 鴉羽は少しうつむき、拳を軽く握りしめながら静かに語り始めた。 「鬼神鉄心を倒した後……琴音は鬼神会から命を狙われる立場になった。祖母も叔父も既に亡くなり、血の繋がった家族はもう俺しかいなかった。彼女はそんな俺を……訪ねてきたんだ。」 その瞳には、琴音がどれほどの思いで自分を頼ってきたか、その重みを噛みしめる感情が浮かんでいた。 「俺のことは、祖母が亡くなる前に琴音に話していたらしい。最後の望みだったんだろうな……。琴音は、自分の中で膨れ上がる孤独や恐怖を抱えながら、俺の元にたどり着いた。」 鴉羽は拳をさらに強く握り、深い息を吐いた。 「俺は決めたんだ。この無意味な争いから琴音を救い出すと。そして、琴音の変わりに鬼神会に対抗するため、俺は裏組織『古鴉(オールドクロウ)』を立ち上げた。」 拳磨はその言葉に驚きながらも、鴉羽の決意の強さを感じ取った。 「鬼神会は既に国そのものを蝕む末期の癌だ……。二代目の無道が組織を引き継いで以降、その勢力は世界中のマフィア――特に隣国のC国と結託して急速に拡大している。国家の裏社会を牛耳る存在だ。」 鴉羽の顔は険しく、声には怒りと無力感が混ざり合っていた。 「そして……天皇を守護し、政り事を支える心陽流と無影流の後継者は、今や実質的に存在しないも同然だ。鬼神会はそれを知っていて、天照家の力を完全に断ち切ろうとしている。」 その声は一層低くなり、拳磨の胸に重く響いた。 「俺は、傭兵時代や自衛隊で共に戦った仲間、古くからの知人たちと手を組んだ。さらにU国国防省とも連携し、鬼神会壊滅に向けて動いている。だが……この戦いには終わりが見えない。」 鴉羽は顔を上げ、拳磨を真っ直ぐに見据えた。 「だからこそ……俺は琴音をこの終わりのない戦いから守り抜くことを選んだんだ。」 その言葉には、父親としての覚悟と愛が込められていた。 「琴音の記憶を封印し、整形手術を施して、彼女には『白神霧花』という新たな人生を与えた。琴音としてではなく、霧花として平穏な生活を送ってほしかった。」 拳磨はその言葉に息を呑み、胸が締めつけられるような感覚に襲われた。 「その時に協力してくれたのが……桜華だ。」 鴉羽の表情が少し柔らぎ、桜華への感謝が滲み出た。 「桜華は医師で、西洋医学、整形外科、心理学、そして東洋医学にも精通している天才だ。彼女は霧花の身体と心を癒し、新たな人生を築くために力を尽くしてくれた。」 鴉羽は静かに目を閉じ、言葉を絞り出した。 「霧花が今、こうして生きていられるのは、桜華の助けがあったからだ。そして……俺が父親として彼女を守るという使命を果たすためでもある。」 拳磨はその言葉を受け止め、霧花に託された鴉羽の深い想いを噛みしめた。
再生の拳 ep50 竹内家の決意、影猿との対峙
再生の拳 ep50 竹内家の決意、影猿との対峙 影猿と名乗る男がゆっくりと仮面を外し、その顔を晒した瞬間、竹内の目が鋭く細められた。 「お前は……丸山正司!」 竹内の声には驚きと、かすかな嫌悪が滲んでいた。 影猿はニヤリと笑い、無造作に仮面を放り投げる。 「懐かしい名前だな。だが、今は猿渡と名乗っている。部下だったお前にやられた俺はな、あれから自衛官を辞めて、この組織に入った。そして、実戦で腕を磨いた。俺は今の俺だ。……さあ、俺と勝負しろ!」 その言葉に竹内は目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。過去の記憶がよみがえった。 「まだ、懲りていないようだな……。」 竹内の声は静かだったが、内には怒りが込められていた。 「お前に勝った後、音信不通だったが、まさかここまで落ちるとはな……恥を知れ。」 影猿の顔がわずかに歪む。 「昔話はどうでもいい!」 影猿は声を荒らげた。 「俺はお前に復讐するために生きてきたんだ!」 竹内は冷ややかに笑う。 「復讐?ふざけるな。お前は上官という立場を利用して、パワハラやセクハラ、やりたい放題だったよな。部下に理不尽な命令を押し付け、気に入らない者は左遷や退職に追い込んだ……。“元” 中隊長殿。」 影猿の表情が一瞬だけ強張る。 「う、うるさい!」 その動揺を隠すように、影猿は怒りにまかせて叫んだ。 「お前に負けたせいで、俺の積み上げてきたキャリアは全て崩れ去った……!気づいたら、俺には何も残っていなかった。この組織に拾われたから生きてこられたが……お前を倒さなきゃ、俺は前に進めねえ!」 その時、影猿の言葉を遮るように、瑞貴が前に出た。 「あー、こいつか。昔、親父を理不尽な命令で困らせてたのは!なら、俺がやるわ。」 影猿は瑞貴を一瞥し、鼻で笑う。 「お前……竹内の息子か?はっ……ちょうどいい。」 その目に冷たい光が宿る。 「お前も生意気そうだな……親父に似て。なら、まずはお前からいたぶってやるよ。」 竹内 「待て、瑞貴。こいつは俺の敵だ。お前たちに関係ない」 しかし、今度は彩羽が前に出た。 「違うね。」 その言葉は静かだったが、確かな怒りを秘めていた。 「あんたのせいで、お父さん……一時期変わったよね。お父さん、厳しいく私達をしごき出した。おかげで楽しかって拳法も苦痛になり、やがてお父さんからも距離を取るようになったの。これは言わば竹内家の問題。ならば、私と兄にも戦う理由がある。」 瑞貴は頷き、竹内に向かって言う。 「そういうこと。親父は口出すな。」 竹内は二人を見つめた後、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。そして、穏やかに、しかし重みのある声で言った。 「あの時は……すまなかった。」 そして、静かに目を開き、二人を見据える。 「……わかった。」 だが、すぐに表情を引き締め、厳しい口調で続けた。 「だが、気をつけろ!あいつは元自衛官。軍隊格闘技のエキスパートだ。」 瑞貴は肩を回しながら、不敵な笑みを浮かべる。 「わかってるよ。」 彼の目には、確固たる自信と決意が宿っていた。 対決、始動 瑞貴が静かに構えると、影猿はニヤリと笑い、軽くリズムを取るようにアップライトに構えた。 次の瞬間——影猿が鋭くジャブを放つと見せかけ、一気に踏み込む。 「もらった!!」 鋼鉄のような体幹から放たれる強力なタックル!瑞貴の腰を狙い、一気に吹き飛ばす勢いだった。 「甘いな……!」 しかし、その瞬間、瑞貴の身体が一瞬浮いたかと思うと、流れるような動きで影猿の横にスッと回り込んでいた。 「なっ……!」 影猿の表情が驚きに変わる。 瑞貴は無駄なく、影猿の側頭部に肘を叩き込む。 「ぐっ……!!」 影猿の体がわずかに傾く。 「お前が軍隊格闘技のエキスパートなら……俺は竹内家で鍛えられた格闘家だ!」 影猿の顔に初めて焦りが滲んだ。 「ほう……なら、次は本気で行くぞ!」 戦いの火蓋は、完全に切って落とされた——。 天地雲妙拳の継承者——竹内瑞貴、影猿との決着 影猿が低く構え、一瞬で距離を詰める。 「喰らえッ!」 鋭い前蹴りが瑞貴の腹部を狙う。しかし瑞貴はそれを最小限の動きで避けた。 「チッ……!」 影猿はすぐさま体を捻り、回し蹴りを放つ。蹴りの軌道は鋭く、まるで斧が振り下ろされるかのような鋭さだった。しかし、瑞貴は微細な体重移動だけでギリギリかわす。 だが、影猿の真の狙いはそこではなかった。 蹴りをかわされた瞬間、影猿はすかさず瑞貴の腕を掴み、肩を入れて投げに持ち込む! 「貰ったぞ!」 強烈な投げ技が炸裂する——かに思えた。 だが、瑞貴の体は宙を舞いながら、まるで風に乗るように回転し、見事な着地を決めた。 「……これが、大車輪だ。」 その一部始終を見ていた森田が驚きの声を上げる。 「これは……教範に沿った、見事な受け身だ……!」 影猿が目を細める。 「ほう……なかなかやるじゃねぇか。」 瑞貴は余裕の笑みを浮かべ、次の瞬間、影猿の下腹部へと鋭い蹴りを放つ。 「喰らえ!」 直撃——したはずだった。だが、影猿は微動だにしない。 「……ん?」 瑞貴が僅かに眉をひそめる。 影猿は不敵に笑いながら、手で自らの股間を軽く叩いた。 「実戦の場では、準備をしておくのは当然のことだ……金的はしっかりファールカップで固めてある。俺に金的は通じない。」 瑞貴は苦笑し、肩をすくめる。 「なるほどねー、いや、しっかりしてるわ。」 影猿の表情が冷たくなる。 「……お遊びは終わりだ。」 そう言うと、影猿は懐から銀色に光る刃を取り出した。 「……ナイフか。」 瑞貴は目を細める。 影猿は刃を指先で回しながら、低く笑った。 「卑怯と言うなよ。軍隊格闘技は何でもありだ。」 その言葉と同時に、影猿はナイフを巧みに操りながら、鋭い打撃を混ぜた攻撃を仕掛けてきた。 突き、斬撃、肘打ち、膝蹴り——まるで嵐のような連携攻撃が瑞貴を襲う。 だが—— 瑞貴は一歩も引かず、影猿の攻撃のリズムを見極めながら、最小限の動きで紙一重の回避を続けた。 「何を持とうと、狙ってくる場所は同じだ。何ら問題ないね。」 瑞貴の落ち着いた口調に、影猿の苛立ちが増す。 「忌々しい……ガキめ……!」 影猿の目が鋭く光った次の瞬間—— 「喰らえッ!」 ナイフが宙を舞い、瑞貴の頬を掠めた。 僅かに血が滲む。 影猿はすぐさま次のナイフを構える。 「何だよ……子供相手に本気になっちゃってさぁ。」 瑞貴は口元の血を親指で拭いながら、ゆっくりと構えを取る。 「じゃあ……俺もジジイ相手に本気になるわ。」 次の瞬間—— 竹内の目が驚愕に見開かれた。 「こ、これは……!瑞貴、お前……‼️」 瑞貴は静かに微笑みながら言う。 「俺は天才なんだよね。」 「これは親父の秘奥義の一つ——“天破連陣”に続く……“天地雲妙拳”の構え。」 影猿は眉をひそめる。 「……ふざけた名前だが、何をしようと、ナイフの前には無力だ!」 影猿はナイフを突き出した。だが—— 「……何!?」 瑞貴の体が”霞”のように揺らぎ、そこに”いるはずなのに”実態が無い。 「——遅いよ。」 影猿の背後で瑞貴の声が響く。 驚愕した影猿は、すぐさま裏拳を放つ。 「このッ……!」 だが、瑞貴はそれを完璧に読み、素早くしゃがみ込む。 そして—— 「貰った。」 影猿の膝裏の急所——**【委中、陰陽、陰谷】**を突く。 影猿の脚がガクンと崩れた。 続けて、瑞貴は前方の急所——**【血海】**を突く。 影猿の膝が地面に着く。 瑞貴は静かに合掌し、掌を重ねる。 竹内の目が見開かれる。 「……まさか……!」 「【菩薩掌】——」 瑞貴の掌が影猿の顔に伸びる。 一撃目——**【人中】**を突く。 影猿の意識が一瞬飛ぶ。 次の瞬間、瑞貴の掌が開かれ、片方は顎の急所——【三日月】、もう片方は側頭部の**【三合】**を同時に突く。 その力強い捻りの衝撃で—— 「グキッ……!」 影猿の体が前のめりに崩れ落ちた。 竹内は息を呑んだ。 「瑞貴……いつの間に、その技を……」 瑞貴はニヤリと笑い、肩をすくめる。 「俺たち、天才だって言ったでしょ。」 「ちなみに——彩羽も出来るし。」 竹内が言葉を失う中、瑞貴は彼の耳元で囁いた。 「それとさ……親父、奥義書をエッチな本やビデオと一緒に隠してちゃ、まずいよ。」 竹内はギクリとする。 「……な、なんでそれを……!」 瑞貴は悪戯っぽく笑った。 「親父の隠し場所なんて、お見通しだっての。」 彩羽も呆れたように肩をすくめる。 ——竹内家の戦いは、確かに新しい時代へと受け継がれていた。
再生の拳 ep49 竹内勉 vs. 妖狐 ― 戦場に響く獣の咆哮
再生の拳 ep49 竹内勉 vs. 妖狐 ― 戦場に響く獣の咆哮 妖狐が振り返ると、竹内勉が拳を構えていた。 「さーて……親の出番かな?」 竹内の低く響く声とともに、戦場の空気が一変する。 妖狐は目を細め、不敵に笑う。 「……親が出てくるの?」 竹内はゆっくりと歩を進めながら微笑む。しかし、その微笑みの裏にあるのは、鋭い殺気。 「まぁ、うちの娘をよくもやってくれたな……。これは親としてのお仕置きだ。」 妖狐は肩をすくめる。 「親バカなのね。でも、悪くないわ。あなたがどれほどのものか、試させてもらう。」 妖狐の構えは完璧。隙はない。 竹内はふっと息を吐くと、ゆっくりと腰を落とした。 「お前……なかなかいい動きをするな。でもな……」 次の瞬間――バッ!! 竹内の姿が、かき消えた。 「なっ──!?」 妖狐の表情が一瞬歪む。 ──気づいた時には、すでに背後。 「遅い。」 竹内の拳が妖狐の襟足へ突き出される。しかし── キンッ!! 鋭い金属音とともに、竹内の拳が弾かれた。 妖狐の手には、小さな護身刀。 「ふふ、速いけど甘いわね。」 竹内は一歩距離を取り、薄く笑う。 「なるほど、反射神経も悪くない。」 妖狐は刃を翻し、次の瞬間、目の前から消えた。 「ほう……!」 竹内は即座に後方へ跳ぶ。だが── 「逃がさないわよ!」 シャッ!! 妖狐の爪のような手刀が竹内の頬をかすめる。 「ちっ……!」 竹内は素早く軸をずらし、寸前で躱す。しかし、妖狐の攻撃は止まらない。 バシュッ! バシュッ! 空間を切り裂く爪の連撃が竹内を追い詰める。 ギリギリの攻防。だが―― 竹内の目が鋭く光った。 バッ!! 拳が弾丸のように放たれる。 「クッ──!!」 妖狐は身を翻し、拳を避けようとするが── ズドンッ!! 竹内の膝が妖狐の腹部を打ち抜く。 「ぐっ……!!」 妖狐の体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。 「これで終わりだ。」 竹内は妖狐の腕を絡め取り、一瞬で技を極める。 バキィッ!!! 鈍い音が響く。妖狐の肩が外れる。 「……っ!!」 妖狐は顔を歪めるが、悲鳴は上げない。 竹内はその場に立ち、静かに言った。 「もう動けまい。」 妖狐は歯を食いしばりながら、悔しげに竹内を睨みつけた。 「……やるじゃない。」 しかし、勝負は決した。 竹内勉の圧倒的な力の前に、妖狐は膝をついた。 彩羽が、ようやく身体の自由を取り戻しながら立ち上がる。 「お父さん……すごすぎる。」 瑞貴も圧倒されたように言葉を失っていた。 七沢が苦笑いしながら呟く。 「……さすがは道場長ってとこだな。」 竹内は妖狐を見下ろしながら言う。 「お前、実力はあるが……まだまだ甘いな。」 妖狐は唇を噛みしめながら、肩を抑える。
守護の拳【本編】 ep37 真相
守護の拳【本編】 ep37 真相 「霧花――いや、本名は天照琴音と言う。 そして、琴音は私の実の娘だ。 彼女の生家である天照家は、代々天皇や皇族を守護する宿命を背負ってきた一族だ。 その役目を果たすため、天照家には皇族を守護する 【天照心陽流】 とそれに追従し害を排除する 【天照無影流】 という二つの暗殺拳が受け継がれている。 本来、 【天照心陽流】 は天照家の血筋を継ぐ女性が、 【天照無影流】 は男性がそれぞれ継承し、一対の存在として任務を遂行してきた。だが琴音は20歳の若さで、例外的にその両方を継承するに至った。 今から16年前、琴音の母であり、俺の妻である紫苑は、鬼神会の鬼神鉄心に命を奪われた。 紫苑は先代として天照家の使命を果たし続けたが、敵の凶刃から逃れることはできなかったのだ。 それが、霧花こと琴音の背負う運命をさらに過酷なものへと変えていった。」 拳磨は眉をひそめ、信じられないというように問い返した。 「えっ……今、なんて言いました?鬼神会、鬼神鉄心? その名前……昔、私の師匠から聞いたことがあります。鬼神会の闇地下闘士にされそうなところを、師匠の竹内勉に助けられました。」 その言葉を聞いた鴉羽の表情が変わる。驚きと複雑な感情が入り混じった瞳で拳磨を見つめると、低く呟いた。 「拳磨君、それは本当か?君は竹内勉の弟子だったのか?」 拳磨は少し戸惑いながらも頷いた。 「はい……鴉羽さん、師匠を知っているんですか?」 鴉羽は重々しく頷き、遠い記憶を掘り起こすように言った。 「知っているどころじゃない。俺と竹内、そして鬼神鉄心は……自衛隊の同期だった。 一緒に同じ釜の飯を食い、訓練を乗り越えた仲だ。」 その言葉に、拳磨は息を呑む。過去と現在が繋がり、胸の奥に奇妙な緊張が走った。 「そうだったんですか……。それで……霧花……いや、琴音は……?」 拳磨の問いに、鴉羽は一瞬だけ目を閉じ、深く息を吸い込む。そして静かに口を開いた。 「鬼神鉄心は、天照家の秘術――暗殺拳の奥義書を狙って紫苑を襲った。琴音の母親であり、俺のかけがえのない妻を……だ。」 鴉羽の声には苦しみが滲んでいた。 「当然、紫苑の方が圧倒的に強かった。しかし、鉄心は卑怯にも当時まだ幼かった琴音を人質に取ったんだ……。」 拳磨の拳が無意識に握り締められる。鴉羽の語る過去が、あまりにも無慈悲で残酷だった。 「紫苑は娘を守るために抗ったが、最期には鉄心の刃に倒れた。そして……鉄心は奥義書を奪い、琴音の兄、響真を連れ去った。まだ13歳だった響真をな……。」 鴉羽の言葉に、拳磨は目を見開いた。 「兄を……連れ去った……?」 鴉羽は頷き、拳磨をまっすぐ見つめる。 「鉄心は響真を地下闘士として育て上げ、また天照家の暗殺拳を分断するために引き裂いたんだ。天照家には一つの秘奥義がある。天照心陽流と天照無影流が一つになったときに生まれる究極の奥義……【天照光影】。鉄心は、それを阻止するためでもあった。そして、それはつまり国家の守護を機能を麻痺させる事になる。これは国家転覆を狙う者たちにとっては好都合だからだ。過去、天照家の活躍で悪き組織はことごとく壊滅させられたからな。」 拳磨は言葉を失ったまま、鴉羽の話に耳を傾けた。 「琴音はな……自分が人質に取られたせいで母を死なせてしまったと思い込み、ずっとその罪を背負ってきた。響真が連れ去られたのも、自分のせいだと悔いてきたんだ。」 鴉羽の声はかすかに震えていた。その裏に秘められた深い怒りと悲しみが、拳磨の胸にも重くのしかかる。 「そんな……」 拳磨のつぶやきは、まるで自分自身に言い聞かせるような響きだった。彼の心の中で、琴音のこれまでの苦しみが痛いほど伝わってきた。 鴉羽は静かに続けた。 「だからこそ、琴音の力は必要だ。だが、力を使うには覚悟がいる。お前がその隣に立つ覚悟を決めるのなら、俺はお前に託そう。」 拳磨は静かに息を吸い、拳を握り直した。その目に宿る光は、揺るぎない決意を帯びていた。 鴉羽は深い溜息をつき、どこか遠くを見つめるように目を細めた。 「……私も、紫苑や子供たちのそばにいてやれなかったことが……悔やんでも悔やみきれない。あの時、私は……天照家の掟に従わざるを得なかったんだ。」 拳磨は静かに耳を傾ける。その声には、長い年月抱え続けた後悔がにじみ出ていた。 「天照家ではな、正式に心陽流と無影流の後継者が決まった時点で、外部の者は家を去らなければならない――そういう掟がある。だから……紫苑や子供たちを残して、私は天照家を出なければならなかった。」 鴉羽は苦い笑みを浮かべたが、その瞳には深い悲しみが宿っていた。 「そして……自衛官を辞めた私は、自分の無力さに苛まれながらも、日本を離れることを選んだ。国外に出て傭兵となり……その間、自分を誤魔化しながら戦場を渡り歩いた。」 拳磨はその言葉の重みに押しつぶされそうになった。紫苑と子供たちのために何もできなかった自分を責め続けてきた鴉羽の姿が目に浮かぶようだった。 「紫苑や響真、琴音がどうなったのか……それを知ったのは、7年前に日本に帰国してからだった。」 鴉羽は拳を握り締め、苦々しく顔をしかめた。 「琴音はその間……紫苑の母親、つまり祖母と、紫苑の弟である叔父のもとで育てられた。そして、彼女は二人から心陽流と無影流の技を受け継ぎ、後継者となった。」 鴉羽の声がわずかに震える。拳磨はその言葉の続きを待ちながら、鴉羽が絞り出すように語るのを見つめていた。 「だが……琴音はずっと自分を責め続けた。母を守れなかったのは自分のせいだと……響真が連れ去られたのも、自分の弱さのせいだと……。その罪悪感を埋めるため、彼女はひたすらに拳法の修行に没頭した。」 鴉羽は静かに目を閉じ、声を落とした。 「そして……彼女はついに決断したんだ。親の仇である鬼神鉄心を……暗殺することを。」 拳磨は息を呑んだ。その言葉には重々しい現実が込められていた。 「琴音が鬼神会の中枢に潜り込み、鉄心を暗殺したという知らせを聞いた時……私は言葉を失ったよ。だが同時に、胸が張り裂けそうだった。彼女がその刃を振るうに至るまで、どれほどの苦しみと孤独を背負ってきたのか……想像するだけで心が痛む。」 鴉羽は拳を握り締め、震える声で続けた。 「私は……彼女を一人にしてしまった。その重荷を全部背負わせてしまったんだ……。」 拳磨は何も言えず、ただ鴉羽の言葉を受け止めていた。その場の空気が重く張り詰め、琴音の背負ってきた運命の深さが二人の間に重くのしかかっていた。
守護の拳【本編】 ep36 目覚め
守護の拳【本編】 ep36 目覚め 翌朝、拳磨はゆっくりと目を開けた。 身体の節々に鈍い痛みが走り、起き上がろうとした瞬間、違和感が全身を包む。 「ここは…?」 見知らぬ天井と周囲に並ぶ医療機器。包帯が巻かれた自分の体を見ると、前夜の出来事が記憶の断片となって頭をよぎった。 戦慄が走る――豹変した霧花、圧倒的な力で敵を葬る姿。 「…あれは夢だったのか?」 自分に問いかけるように呟くが、その記憶は鮮明すぎた。そもそも昨夜、霧花と一緒にBARで飲んでいたはずだ。 「じゃあ、ここはどこなんだ?」 混乱する頭を押さえようとした瞬間、激しい痛みが頭を貫き、思わず呻き声を上げた。まるで記憶を取り戻すのを拒むかのような感覚だった。 そんな中、隣で小さな声が聞こえた。 「…う、うーん…」 ベッドの脇で伏せて寝ていた霧花が目を覚まし、拳磨を見て驚きの表情を浮かべる。 「拳磨…!」 涙が一気に溢れ、言葉にならない声で拳磨の名前を呼ぶと、霧花は慌てて奥に向かって叫んだ。 「桜華さん!桜華さん!拳磨が目を覚ましたの!」 その声に反応するように霧花の瞳から涙が次々と零れ落ち、彼女は拳磨の手を握りしめた。 「良かった…本当に良かった…もう、本当に心配したんだから…」 その声は震え、拳磨への安堵と愛情がにじみ出ていた。拳磨も静かに彼女の手を握り返し、優しい温もりが二人の間に流れた。 奥のドアが開き、天草桜華が白衣姿で入ってくると、霧花が振り返って明るい声を上げた。 「桜華さん、拳磨が目を覚ましたよ!」 桜華は短く頷き、さっそく診察に取り掛かった。拳磨はその様子を見て目を丸くする。 「えっ…桜華さん?その格好、どうしたんですか?」 桜華は軽く肩をすくめて笑う。 「何って、うち、こう見えて医者やねんで。」 「えっ、医者…?」 拳磨の驚きに満ちた表情を見て、桜華はクスリと笑った。 「まぁ、驚くのも無理ないわな。でも、あんたこれだけ喋れるんやったら大丈夫や!」 診察を終えた桜華は、霧花の肩に手を置いて明るい声で言った。 「琴音、もう安心してええよ。後は一週間くらい安静にしとったら問題あらへんわ。」 「ありがとうございます、桜華さん。本当に…ありがとうございます」 深々と頭を下げる霧花を見て、桜華はにっこりと笑うと拳磨を振り返った。 「ところで…琴音って…?」 拳磨が怪訝そうな表情を浮かべると、桜華は一瞬言葉に詰まり、苦笑しながら答えた。 「あー、あー、琴音ってのは霧花の本名やねん。天照琴音っていうんや。」 「えっ、本名…?どういうことだ?」 霧花はうつむき、答えることができない様子だった。桜華は言葉を探しつつも、やがて肩をすくめた。 「まぁ、話せば長くなるし、だいぶややこしい話なんやけどな。詳しいことは…」 言葉を切ると、タイミングよく入ってきたマスターの鴉羽に目を向ける。 「あとからはマスターに任せるわ!」 桜華は軽く肩を叩いて部屋を出ていった。 「おはよう、拳磨君。どうだ、気分は?」 鴉羽は穏やかな口調で尋ねると、霧花に視線を向けた。 「琴音、少し拳磨君と話をしたいから、桜華と一緒に買い出しに行ってきてくれないか?」 「うん、分かったわ」 霧花は拳磨の手をそっと握り直し、柔らかく微笑むと部屋を後にした。 ドアが閉まる音を確認すると、鴉羽は拳磨の方に向き直り、ゆっくりと語り始めた。 「さて、拳磨君。話しておかなければならないことがあるんだ…」
守護の拳【本編】 ep35 宿命の歯車が動く夜
守護の拳【本編】 ep35 宿命の歯車が動く夜 オールドクロウの扉が静かに閉じ、店内には緊張感が漂っていた。 負傷した拳磨が運び込まれると、マスターの鴉羽は迅速に動き出した。彼はクローゼットに向かうと、壁に隠されたキーパネルの蓋を開き、迷いなくコードを入力した。その瞬間、バーカウンターのバックバーが静かにスライドし、重厚な扉が姿を現す。扉の奥には、眩い照明に包まれた空間が広がっていた。そこには、誰も予想だにしない最新鋭の医療装置が整然と並んでいた。 拳磨をそっとベッドに横たえると、バーテンダーの天草桜華が奥の部屋から現れた。彼女はいつものバースーツ姿から白衣に着替え、表情に不安を滲ませながらも、決意を秘めた瞳で拳磨を見つめた。 一方で、霧花と向き合った鴉羽の瞳は深い悲しみに揺れていた。彼はそっと彼女の肩に手を置くと、震える声で言った。 「もう大丈夫だ……もう……」 その言葉には、自分自身への言い聞かせと、霧花への祈りが込められていた。普段は冷静沈着な鴉羽の頬を、ぽたりと涙が伝い落ちた。その涙を見た霧花の心もまた、深く揺さぶられる。 やがて鴉羽は意を決したように、静かに問いかけた。 「霧花……全てを思い出したんだな?」 霧花は小さく頷き、その視線を真っ直ぐに鴉羽へ向けた。 「ええ……私の本当の名前は、天照琴音。天照心陽流の天照琴音よ。」 鴉羽の顔に苦しげな影が差した。 「琴音……すまない。私が君の技と記憶を封じたばかりに、君をこんな危険な目に合わせてしまった。」 琴音はそっと微笑み、首を振る。 「いいえ、お父さん。お父さんは私のことを思って、普通の幸せを願ってくれたのでしょう?それに、この何年間、普通の女性として過ごす幸せを知ることができた。それは何よりも大切な時間だったわ。拳磨とも出会えたのだから……感謝しているわ。」 琴音の目が真剣に輝き、彼女は桜華の方へ視線を移した。 「桜華さん、お願い。拳磨を助けてください。この人は……私に“守られる”という感情を教えてくれた人なの。誰かがそばにいてくれる、守られている……そんな温かさを初めて感じたの。今度は私が彼を守りたい。」 桜華は明るい笑みを浮かべ、力強く頷いた。 「大丈夫やで、琴音。あんたの大事な彼氏、絶対助けたるさかい、安心しぃや。」 その一方で、鴉羽の口調は重々しいものだった。 「琴音、いずれ君は鬼神会に狙われるだろう。奴らは愚かじゃない。君が初代鬼神会会長・鬼神鉄心を闇に葬ったことに気づくのも時間の問題だ。それがたとえ、母親の敵討ちだったとしても、奴らには関係ない……運命は変えられない。この宿命を断ち切るにはもう鬼神会を潰す以外に道はないんだ。」 鴉羽の言葉には、避けられない戦いへの覚悟が滲んでいた。琴音は瞳を閉じ、一瞬だけ息を整えると、力強く答えた。 「最初から覚悟はできているわ。母を殺され、兄を奪われたあの日から……私はその運命を背負ってきたのだから。」 空気に静寂が漂う中、琴音は拳磨の隣に腰を下ろし、彼の手をそっと握った。その手は、いつもと変わらない温もりを彼女に伝えていた。琴音の瞳には、揺るぎない決意と愛情が宿っていた。 霧花の話を聞く鴉羽の表情は、徐々に深い憂いと責任感に包まれていった。 「そして、あの連中を調べさせたら、鬼神会の末端とはいえ、やはり組織の者だった。琴音、当然、拳磨君も無事では済まない。」 鴉羽の言葉に、霧花――いや、琴音は迷いのない瞳で応えた。 「私は最初から覚悟は決まっているわ。あの日から……もう恐れるものなんてない。」 その毅然とした態度に、一瞬だけ鴉羽は言葉を詰まらせた。彼の目がわずかに揺れ、痛みが浮かび上がる。 「済まない……琴音。私がお前の父親として、いつも君と紫苑のそばにいてやれたなら……」 琴音は微笑みながら首を横に振り、優しく鴉羽を見つめた。 「そんなこと言わないで、お父さん。天照家は代々女系の一族。掟がそうさせたんだから、お父さんのせいじゃないわ。それに――逃亡中だった私を助け、新しい人生を与えてくれたのもお父さんじゃない。私は感謝してるの。」 鴉羽の目に少しだけ安堵の色が浮かんだ瞬間、明るい声が部屋に響いた。 「よっしゃ!これで大丈夫や!」 桜華が処置用の手袋を外しながら、快活な笑みを浮かべた。 「琴音、もう心配せんでええよ。アイツ、大丈夫や!朝には目ぇ覚ますはずやから、それまでそばにおったりぃ。」 琴音は深く息を吐き、微笑みながら頷いた。 「ありがとう、桜華さん……。」 桜華 「マスター、疲れたわ。美味しいコーヒー入れてくれへん?鬼神会のことは……また明日話そか。」 鴉羽は静かに頷き、エスプレッソマシンのスイッチを入れた。その音が響く中、琴音はふと何かを思い出したように顔を上げた。 「あ、そうだお父さん。私……お兄ちゃんに会ったの。」 その言葉に、鴉羽の手が止まった。目が驚きと緊張で細められる。 「本当か、琴音。響真に会ったのか?」 琴音は頷き、静かに語り始めた。 「ええ、間違いない。あれはお兄ちゃんだったわ。天照無影流の技で私たちを助けてくれた。そして……私の名前を呼んだの。」 鴉羽の瞳には、複雑な感情が次々と浮かび上がった。やがて彼は小さく息を吐き、静かに呟いた。 「そうか……また、運命の歯車が動き出したのか。これも宿命なのだろうな……わかった。琴音、ありがとう。響真のことは、心配するな。」 琴音は短く 「うん」 と答えると、拳磨の横に座り、そっと彼の手を握った。その手はいつもと変わらない、温かなぬくもりを伝えてくる。 彼女は微笑みながら囁いた。 「拳磨……あなたは本当に不思議な人ね。この手のぬくもりだけで、こんなに安心できるなんて……」 拳磨の寝顔を見つめる琴音の目には、穏やかな涙が浮かんでいた。その涙には、愛と決意、そして深い感謝が込められているようだった。