桜井優斗【守護の拳】
3 件の小説桜井優斗【守護の拳】
※昨年から少しずつ書き進めている小説のテーマは「武道」です。私がこれまでに学び、経験してきた少林寺拳法や武道の哲学を物語に込めています。主人公が己を磨きながら困難を乗り越える姿を描く中で、「力」と「正義」のバランスや、人とのつながりの大切さといった普遍的なテーマに挑んでいます。
3話 西破毛会(にしはげかい)
3話 西破毛会(にしはげかい) かつては、それぞれ仕事も家庭も持っていた。 しかし今では、過去への不満と劣等感だけを抱え、夜の片隅で群れるしかない男たちとなっていた。 西山剛(40歳) リーダー格らしき男。 仕事嫌いで、理由をつけては仕事をさぼり、家族には仕事へ行くふりをしてギャンブルに明け暮れる。子供のための支援金にまで手をつける、責任感の欠片もない毒親だった。 家では威張り散らす一方、会社では虚勢ばかりで、その小ささと薄っぺらさを見透かされ、周囲からは相手にされない。都合が悪くなると、責任を取るどころか真っ先に逃げ出す。 知性も腕力もなく、残されたのは金と女への底なしの欲望だけ。女性社員には執拗にSNSを聞き出そうとし、嫌われ変質者扱い。 身体の小ささと弱さを隠すように頭髪と眉を剃り上げ、粗暴な態度で自分を大きく見せようとする。 他人の苦痛や恐怖を見て笑うその顔には、罪悪感も同情もない。 まるで壊れた人形のような笑み。 「自分さえ良ければ、他人がどうなろうと知ったことではない」 それが、西山という男だった。 岡本(40歳) かつて勤めていた会社では、執拗なパワーハラスメントで部下を追い詰め、やがて自らも職を失った。 敗北を認めることができず、社会への不満を吐き散らすことでしか自尊心を保てない。 虚勢と支配だけが、彼に残された唯一の拠り所だった。 遠野(45歳) 大柄な体格とは裏腹に、その心の器は驚くほど小さい。 嫉妬と劣等感を募らせ、職場では一部の部下へのパワーハラスメントや女性へのセクハラを繰り返した。 その末に会社を解雇され、家族からも見放される。 誰一人、彼を引き留める者はいなかった。 駒井(50歳) 五人の中では最年長。 しかし、その背中は誰よりも小さく見える。 失敗を恐れ、何かあればすぐに頭を下げる。 強い者には卑屈な笑みを浮かべて媚びへつらい、反対に弱い女性や子どもには容赦なく暴力を振るう。 彼にとって「仲間」とは、孤独を忘れるためだけの最後の居場所だった。 上山(45歳) 端正な容姿を利用して部下の女性に近づき、巧みに信用を得ては利用する。 ある女性による告発をきっかけに会社を解雇され、その後、かつての同僚だった岡本と遠野に誘われ、冥輪会へ身を置くことになった。 己の欲望のためなら他人の人生など顧みない。 その冷酷さは、五人の中でも群を抜いていた。 彼らはまだ知らない。自分たちがこれまで散々踏みにじってきた「弱者」の中に、自らの運命を終わらせる存在がいることを。 夜の路地裏。 彼らの笑い声は、薄明かりの明滅した街灯の下で冷たく反響する。 それは、哀れな男たちが“自分の価値”を確かめ合うための、 静かな共鳴の音だった。 「おいおい……夜のデートか? いいご身分だな」 岡本がにやりと笑う。 「寒いだろ? 俺らが温めてやるよ」 不潔な目で、優子を見据える。 遠野が続けて、くっくっと喉を鳴らす。 「兄ちゃん、彼女、可愛いいなぁ。譲ってくれりゃ、痛い思いせずに済むぜ?」 と、その性格に見合ったネッチョリと陰湿でナメクジが這ったような視線で優子を見据える。 優子が一歩、後ずさった。 その様子を見て、西山が 「逃げるなよ、嬢ちゃん。嬢ちゃんは俺たちへの貢ぎ物だ。一緒に楽しもうぜ」 と舌舐めずりをする。 凍える夜気が、静かに張りつめていた。 薄雪を踏むたび、足元でかすかな音が散り、 吹き抜ける風が、どこかで空き瓶をカラリと転がした。 一条寺蓮が、優子を庇うように無言で前へ出た。 背筋は伸び、顔は無表情。 だが、その目には確かな光――闘う者の覚悟が宿っていた。 「……道を空けろ」 静かに放たれたその一言が、 冬の冷気よりも鋭く、5人の鼓膜を貫いた。 岡本が鼻で笑う。 「なんだよ、兄ちゃん。女の前だからって格好つけてんじゃねぇぞ」 だが、蓮の目は微動だにしない。 その足元から、確かな殺気がにじみ出す。 静寂。 雪が一片、空から舞い落ちた。 その瞬間、空気が変わった。 岡本が一歩、前に出た。 革ジャンの肩を鳴らしながら、煙草の灰を足元に落とす。 「おい兄ちゃん。聞こえなかったか? ここを通りたかったら、その可愛らしい彼女と ありったけの金を置いていきな!」 蓮は黙ったまま、優子の肩に手を置き、後ろへ下がらせた。 その指先のわずかな力だけで、「下がっていろ」と伝わる。 「チッ、何だその反抗的な目はよ。俺の大嫌いな目だな。どいつもこいつも見下した目で見やがって。」 西山が舌打ちした。 「こいつ、俺達をナメてんな……」 5人の間に、重い沈黙が落ちる。 吹き抜ける風が、ゴミ袋をバサリと鳴らした。 岡本がにやりと笑い、ポケットからナイフを取り出した。 錆びた刃先が、薄暗い街灯の光を受けてギラリと光る。 「坊や その可愛らしい顔を刻んでやるよ」 岡本がナイフの刃先をペロリと舐め、蓮を睨みつける 「ビビって声も出ねぇのか? なら、少し躾けてやるよ」 一歩、二歩 岡本が詰め寄る。 その背後で遠野と西山、上山、駒井は左右に散り、蓮を囲むように位置を取った。 5対1 優子が息をのむ。優子は後退りながら 「やめて……!」と叫ぼうとした瞬間、 西山がひょろりと腕を伸ばし、優子の手首を掴んだ。 「おっと、嬢ちゃんは逃がさねぇよ」 「離してッ!」 優子が抵抗し、手を振りほどこうとするが、 西山は細い腕で、ありったけの力でその腕をねじ上げた。 「キャーー」 「いい悲鳴だ……もっと聞かせてくれよ」 パァン――! 乾いた音が夜の路地に響いた。 「やめてッ!!」 優子の手のひらが、西山の頬を叩いていた。 西山の顔がゆっくりと横に振れ、頬に赤い手形が浮かんだ。 「……ああ、やってくれたな」 低い声。 その声に、岡本と遠野が一瞬だけ息を飲んだ。キレた西山は小柄ではあるが異常性愛サイコパス。彼の欲望が果てるまで誰も手が負えなくなる。 壊れた人形のような西山の細い目が、血走る。 「嬢ちゃん、タダじゃ済まねぇぞ」 まさに、西山が優子に襲いかかる その瞬間だった。 つづく 「本作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称・出来事は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。」
2話 裏通りの影
2話 裏通りの影 広場を抜けて、二人は人通りの少ない路地へと足を踏み入れた。 さっきまでのネオンの光が、背後で遠のいていく。 古びたコンクリートの壁、錆びたフェンス、積み重なったゴミ袋。 吹き抜ける風が、遠くのベルの音をかすかに運んでくる。 「……本当に、こんなところにお店があるの?」 優子が不安そうに問いかける。 蓮は笑みを浮かべて答えた。 「大丈夫。もうすぐだ。ちょっと近道。秘密基地みたいな場所なんだ。」 そう言って、彼は優子の手を軽く握り直す。 だが、その瞬間! 路地の奥で、暗がりの影が五つゆらりと動いた。 酒瓶を片手にした男たちが、ニヤついた顔で二人の行く手をふさぐ。 酒と煙草、そして汗の残り香が、白い吐息とともに夜気に溶けてゆく。 五人の男が、ゆっくりと姿を現した。 「おいおい、こんな時間にデートかよ。いいねぇ、兄ちゃん。」 優子が小さく息をのむ。 蓮は彼女を背にかばいながら、一歩前へ出た。 夜風が一層冷たくなり、遠くのベルの音がかすかに響く。 BAR《オールドクロウ》まで、あとわずか。 だがその道のりは、思ったよりも険しいものになりそうだった。 西山、岡本、遠野、上山そして駒井。 この路地裏界隈で悪名高い、【西破毛会(にしはげかい】と名乗る五人組のチンピラ達だ。 彼らの背後には、この一帯の裏社会を牛耳る組織 【冥輪会】 がある。 その名を口にするだけで、夜の街の空気はわずかに張り詰め、人々は視線を伏せる。 もっとも、西山たちは冥輪会の末端で雑用をこなす、ただの下っ端にすぎない。 今ではさらに落ちぶれ、ホームレスとしてその日を暮らしている。 それでも、彼らにはひとつだけ残されたものがあった。 「冥輪会」の名だ。 その名を盾にすれば、多くの人間が怯み、逆らうことを躊躇する。 西山たちは、そのことをよく知っていた。 だからこそ、冥輪会という看板の威光を笠に着て、好き放題に振る舞っていた。 夜になると人気のない路地を徘徊し、酔客から財布を奪い、若い男女を脅して金を巻き上げる。 己の欲望のままに、街を徘徊する。 無抵抗の者の恐怖を食い物にして生きる。 彼らは、もはや悪党ですらない。外道以下だった。 暴力と恫喝は彼らにとって呼吸と変わらない日常だった。 だが、その威勢も徒党を組んでいる時だけのもの。 一人になれば、誰もが己の弱さを隠すことしかできない。 社会の底へ沈みきった彼らは、それでも自分たちはまだ這い上がれると信じていた。 その想いは、希望と呼ぶにはあまりにも儚く、支えと呼ぶにはあまりにも哀れだった。 風に揺れる、消えかけの灯火のように。 つづく 「本作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称・出来事は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。」
【1章】1話 白い息とネオンの夜
【1章】1話 白い息とネオンの夜 十二月中旬。 街はクリスマス一色に染まり、アーケードには星型のライトと雪の結晶の飾りが揺れていた。 一条寺蓮は、手にした紙袋を持ち直しながら、隣を歩く笹峰優子の横顔を見た。 白い息が二人の間で重なり合い、冬の夜気へと静かに溶けていく。 「寒くない?」 「うん、大丈夫。手袋してるし。それに――」 優子は首元のマフラーにそっと触れ、嬉しそうに笑った。 「この、お揃いのマフラーもあるからね」 そう言って、両手を蓮の前に差し出す。 真っ赤な手袋の上に、ひらりと雪が一片舞い落ちた。 雪は一瞬だけその赤に白く映え、やがて小さな水滴となって消えていった。 商店街のショーウィンドウにはサンタやトナカイの人形が並び、赤と金のリボンが彩りを添えていた。 二人はガラス越しにディスプレイを覗き込む。 「見て、これ可愛い」 優子が指差したのは、マフラーを巻いたクマのぬいぐるみだった。 「プレゼント交換、これでも良かったかもね」 「いや、それじゃ子供すぎるだろ」 「えー、可愛いものが好きな男の人もいるって」 「そうか? 俺は……」 「なに?」 「優子のほうが、可愛いと思うけどな」 その言葉に、優子はふっと頬を染めた。 「そういう事、さらっと言うのやめてよ」 「本気なんだけどな」 「もう……」 笑い合う二人の姿を、すれ違う人々がちらりと振り返る。 どこにでもあるカップルの光景。 けれど、蓮にとっては何よりも大切な時間だった。 広場に出ると、そこには大きなクリスマスツリーが立っていた。 ツリーの頂点で瞬く一つの星が、まるで夜空を貫くように輝いている。 「ねぇ、あれ見て」 優子が指差した。 「綺麗……。なんだか、願い事をしたくなるね」 「じゃあ、してみようか」 「蓮くんは?」 「俺は……優子が、ずっと笑っていられますように」 優子は少し驚いたように蓮を見つめ、それから小さく笑った。 「それって、自分のことより私の幸せをお願いしたの?」 「そうだよ。その方が、俺も幸せだから」 しばらくの沈黙。 雪がふわりと二人の肩に舞い落ちた。 驚いたように見上げた彼女は、すぐにふっと微笑む。 その穏やかな笑みは、街のイルミネーションよりも静かに心を照らした。 「……冷たいな」 「寒いもん」 「じゃあ、少し寄り道しようか」 蓮が小さく息を吐き、前を向く。 「俺の知り合いの店があるんだ。きっと気に入ると思う」 「どんなお店?」 「“オールドクロウ”っていうBAR。 静かで落ち着いた店なんだ。 マスターの話も面白いし……今夜は、温かいものでも飲もう」 優子は少しだけ考え、それから小さく頷いた。 その仕草に、夜の風がやさしく触れる。 二人の手は離れぬまま、街の灯の中を並んで歩き出した。 アーケードを抜ける角を曲がると、ざらついたアスファルトの匂いと、 どこか遠くで響く笑い声が混じり合っていた。 繁華街の光が遠のくほどに、通りの空気は冷たく、静かになっていく。 その中に、ふと背筋をかすめるような視線を、蓮は一瞬だけ感じた。 「……どうかした?」 「いや、なんでもない」 振り返った時には、誰の姿もなかった。 ただ、夜の底が、ほんの少しだけざわめいた。 つづく 「本作品はフィクションです。登場する人物・団体・名称・出来事は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。」