だんごむし

68 件の小説
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だんごむし

東真直さんの背中を追いかけて 言葉を紡ぎ始めた しがない虫。 私の物語を ここにのこしていこうと思う。 いつも表紙に使用させて頂いている すてきなイラストは ノーコピーライトガールさん。

無機質な外側のひかりの中で君と踊りたい

「先生、あなたは私の呪いです。」 そう彼女のひかりを宿さない瞳は 僕を真っ直ぐにとらえて静かに揺れた。 僕は一体 なにをしたかったんだ・・・? 助けたかった、救いたかった、、。、 そんな聞こえのいい言葉も 今は彼女が言う「呪い」に 聞こえる。 彼女の瞳からひかりを奪ったのは 誰だ? 病気?運命?彼女の両親?過去?未来?今? 僕だ。 僕はつかんだ。 彼女のたくさんの 生命線に繋がれた管を。 壊れないように 消えないように そう思って触れてきた彼女の腕を 今度は強く。 「行こう。」 僕らはとびだした。 傲慢で無機質で冷たい あの場所から、。、、、

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無機質な外側のひかりの中で君と踊りたい

この幸せをなんと言葉にしよう

突然ですが 私は病気です。 この世に生を受け 少し時間がたった時 こう言われたそうです。 「この子は3歳まで生きられない。」 そんな私が今何歳かって。 16歳。 もし私が猫だとしたら 80歳。 私が今立っている場所は 傍から見ればあまりに不安定で いつ崩れるか分からないような そんな場所なのかもしれない。 でもそのおかげで あまりにも一分一秒が 愛おしい私の人生を 私は愛しているのかもしれません。 そんな私の人生で 大きな存在であるNovelee。 自分の想いを文章を物語を 通してかたちにするなかで 私は幾度となく救われてきました。 そして私の物語を 読んでくれ コメントをしてくれた方々にも。 Noveleeに出会って 1年と3ヶ月。 いつの間にかフォロワーの方が 100人を超えました。 数をあまり気にしていなくても この数字は何かの節目に感じます。 Noveleeに出会えたこの幸せを なんと言葉にしよう。 遺し続けよう 私が生きた記憶を。 さあ、明日も生きていこう。

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この幸せをなんと言葉にしよう

救いの船

あぁ、君は… 君は私だった。 まだもう少し真っ直ぐに 世界を見つめていた 小さい頃の私。 あの頃の私は何を考えていたっけ。 あの頃の私には世界が どう見えていたのだろう。 思い出せない。 まるで霧がかかったみたいに。 いや、思い出したくない、のか。 そんな私の記憶の霧は そう、君によって、 消えた。 君の小さな瞳は 幼い頃の なんの力もない自分で 自分も守れない。 小さくて弱くて ただただその世界に 絶望する 私の瞳だった。 助けて そうだ、私は 誰かに… 助けて欲しかったんだ。 誰かに、 誰かに、 誰かに。 救って欲しかった。 深くて底が見えなくて ただただ真っ暗な あの黒い絶望の海から。 君のあの頃の私の瞳が 今の私の私に言う。 助けて、と。 救う。 そう即答できるヒーローに 私はなりたかった、なれなかった。 正しさとは何なのか。 それは美しいもの、 そう幼い私は信じていた、多分。 その絶望の海に溺れながら。 それは弱くて小さくて弱い私の 唯一の強さの証明だった。 でも今の私は知っている。 正しさとは何なのか。 それは人を傷つけることはできても 人を守り救済できることはできない、と。 そしてあの頃の私には 船がなかった。 だから溺れた。 ようやく船ができ 自分で自分を救うことは出来る今も その船はひとりのりだった。 ようやく1人を 自分を救える 小さな小さな船。 私は誰かを救うような そんなそんな ヒーローではないことは よく知っている。 でも問いかけた 君の小さな小さな瞳が 黒い海から。 救えない。 船が大きければだなんて そんなことは思わない。 救えないのに 救おうとすることは 罪だ。 救わないことよりも 深くて大きな罪。 最後まで救えないのに 自分の正しさを救うだけの。 相手を傷つける。 大きな罪。 だから私は君と一緒に 深い深い海の底へ沈んだ。 あの頃の私は多分 ひとりが怖かった。

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救いの船

「。」のその先にたくさんの幸せを

あまりにきれいで凛とした字。 すぐに彼女のものだと分かった。 手が震える。 俺は震える手を必死で落ち着かせ もう一度目を開いた。 拝啓 柊先生へ 今日も空がきれいですね。 私には先生が生きる今日の空が 何色かは分からないけど きっと先生の目には 美しく映っているはずです。 私は柊先生に伝えたいことが たくさんあります。 でもそのたくさんのことを伝えるには 私にはあまりにも時間がたりません。 だから手紙にしました。 読んで頂けたら嬉しいです。 病院にいた時 晴れの日も曇りの日も雨の日も 私の目には空が美しく 映りませんでした。 美しく感じれなかったのです。 病院はあまりにも無機質で 悲しくて苦しくて冷たい場所でした。 たくさんの管に繋がれて 腕には穴だらけ。 仲良くなった友達は 次の日には私をおいていってしまいました。 あまりにも冷たくて悲しい世界で 私はいつしか何も感じられない 冷たい人間になっていました。 そんな時 主治医の先生が両親に 私の命の終わりを告げました。 両親は泣きじゃくっていましたが 私には全ての始まりに思えました。 ここから、やっと、やっと、 私の人生が始まるのだと。 そして先生と出会いました。 先生とあの保健室で過ごした時間は 私が唯一生きていた時間です。 病気の私でも、余命わずかな私でもない 私が私として笑えた時間でした。 私の人生は決して病気のものではないから、 だから私は私として生きられた 先生との時間が今も心から愛おしいのです。 先生に出会った春。 暑さの中先生とたわいもない話をして笑った夏。 合唱祭の歌を先生が聞いてくれた秋。 そして病院に先生が会いに来てくれた冬。 先生と過ごした時間に 先生の優しさに私は救われました。 先生言ってくれましたよね。 「いつでもくればいい。」って。 くだらない冗談を先生と 言い合っている時が 私の生きている時間で いつでも行っていい場所が あることが幸せで。 先生にたくさんもらった幸せは 私のあまりに厚くて晴れるはずがなかった 曇り空を突き破ってくれました。 先生には感謝ともうひとつ 伝えたいことがあります。 ごめんなさい。 たくさん困らせましたよね。 先生との私が私でいられる関係を守るために 絶対に先生の前では泣かない、 病気の私にはならないって決めてたのに。 泣いてしまったから。 先生と一緒に守ってきたものを 壊してしまったでしょうか。 でも先生がそっとティッシュを渡してくれて、 隠れて泣いていたあの日も 本当は気付いていたのに、 知らないふりをしてくれて。 本当に本当にありがとうございます。 もう全部書いてたらきりがないですね。 幸せすぎました。本当に怖くなるくらいに。 柊先生、ありがとうございました。 柊先生、どうかお元気で。 こんなこと言ったら重荷になってしまうかもですが、 最後にもうひとつ。 柊先生の人生にたくさんの幸あれ。 柊先生からたくさんの幸せをもらった 生徒より 俺はそっと封筒の中に 桜の花びらを入れた。

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「。」のその先にたくさんの幸せを

くらげ

私はくらげ 私は人間 私はくらげになりたかった人間 何も感じない 痛くないし 怖くないし 寂しくないし 私はくらげ 私はくらげ 水の中は何も聞こえない どんな言葉も 私には無意味 だって私はくらげだから 今日も世界の反対側を映す水の中で ゆらゆらゆれる 世界は裏も表も真っ青で 嘘みたい 水はつつみこむ 言葉を 汚いものを 世界を 私は水と飽和する そして私は世界になる 水はやわらかくて やさしくて この世界のとげを溶かしていく 私はくらげ この世界のとげ 今 溶けていく

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くらげ

母のサンドイッチ

母は不器用だ。 そんな母のことを 私は何度嫌いだと思ったか 分からない。 感情が高ぶると 私をよく怒鳴りつける母。 どこでスイッチが入るか分からないから 幼い頃の私には ただただ恐怖だった。 いや今だって。 でもそんな母でも 私にはたった1人の母親で 大好きな人で それは今も変わらない。 ぶつけられた言葉は 今も思い出すと 胸がぎゅってなるけど でもそれと同じくらい 胸があったかくなる記憶も 私の中には確かにあって。 だからこそ幸せで難しい。 許せないなんて言葉を 良くドラマかなにかで 聞くけれど 母と私の関係はそんな簡単なものでは ないのかもしれない。 愛は呪いだ。 とくに無償の愛は。 多分何をされても私は母のことを 嫌いにならない。 いやなれないのだ。 母と私は血が繋がっただけの 他人なのかもしれない。 母だからって娘の全てが 分かるはずもなく、 娘だからって母の全てが 分かるはずもない。 それどころか分からないことだらけだ。 家を出たらもう会わないだろうと ずっと思ってきたけれど きっと私は会いにきてしまう。 大好きなこの人に。 曖昧で歪つなこの関係に 名前をつけられる日がきたら すこしは楽になれるのだろうか。 学校から帰ると 朝は怒り狂って私を罵倒した母が あったかくてホカホカの サンドイッチをつくって 微笑んでいた。 私が大好きなベーコンと あとは半熟の卵。 私が嫌いなキャベツは 芯がない柔らかい部分。 あぁ、おいしいな。 少ししょっぱいのは 多分涙の味。 幸せ。 多分フィクション。

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母のサンドイッチ

しがない虫が恋をした

あぁ、好きだ。 ある日、しがない虫は 気づいてしまいました。 この胸がぎゅってなって 怖いくらい幸せで 心がぽかぽかする この感情の名前を。 そう、恋でした。 まさかまさか この虫が恋をするなんて、 きっと予知能力者だって 予知できなかったでしょう。 しがない虫は ずっと思っていました。 私に恋はできない、 いや、しちゃだめだと。 普通なんてないと 周りはだんごむしに言います。 私だって、 普通って言葉は嫌いだし 普通なんてないって 信じたかったけど。 普通はどうしても存在して しまうものだということもまた だんごむしは知っています。 だから普通ではない だんごむしが恋をすることはないし 恋をしてはだめだと ずっと思ってきました。 だんごむしの命は 多分短く もし好きな人ができて その人が私を好きと 言ってくれたとしても そんな好きな人を。 心から幸せにしたい人を。 きっと悲しませる結果に なってしまうから。 そんなのはあまりに辛すぎるから。 だからずっとずっと 蓋をしていました。 蓋に接着剤をつけて ガムテープでぐるぐる巻きにして。 そっと奥にしまっていました。 彼に出会ってからも 私はその感情の名前を 尊敬に書き換えてきました。 逃げている、と言われたら、 そうなのかもしれません。 でも本当に心から全身で 彼のことが好きだから。 だから、彼には幸せになってほしいと だんごむしは願うのです。 しがない虫は願いました。 不器用だけど心から 誰かのことを思える 優しい彼の毎日が 幸せであふれることを。 きっと彼を幸せにできるのは 私ではないけれど。 もしいつか彼が幸せの中で 笑っていられる姿を見れたら 私も幸せです。 最後にしがない虫の思いを ここに私の物語に のこします。 こんなしがない虫に こんなに幸せであったかい感情を 教えてくれて ありがとう。 心から 幸せになって下さい。

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しがない虫が恋をした

春が来たよ

これは現在高校1年生の私が 小学1年生の時に 書いた詩です。 久しぶりに思い出したので 投稿してみます。 春だ 春が来たよ あのわたぐもさんにのって 空をとんでみたいな わたしのゆめ 見えるかな ことりさんにきいてみよう なんてこたえてくれるかな 風さんにもきいてみよ なんてこたえてくれるかな お花のにおいといっしょに 大きなゆめ見えるよ

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春が来たよ

「。」のその先

彼女は、そう。 彼女は桜の蕾が膨らみ始めた 冬の終わり。 「。」を迎えた。 新学期。どこか 浮き足立った季節と同様に 生徒達も新しい1年に 目を輝かせている。 彼女はそんな季節の中 特に目を輝かせていた。 3月。彼女の名前を初めて聞いた。 退院して学校に4月から通う生徒。 余命1年。 本来なら、この先の未来に思いを馳せ 希望に満ちているはずのこの歳に 彼女は命の終わりを告げられた。 俺には想像がつかない。 つくはずがない。 絶望。その言葉さえも 彼女にとっては軽く感じてしまう。 そんなことを考えていた俺とは対照的に 彼女はあまりにもきらきらと目を輝かせ この場所にやってきた。 「先生。」 そういって彼女は放課後になると 毎日保健室に足を運んでは 本を読んだり 窓の外を眺めたり。 そしてたわいもない話を俺とした。 彼女は復学したばかりなのに 成績優秀。 いつも同年代の子にはない 大人びた雰囲気を身にまとっていた。 病気が彼女を大人にして しまったのだろうか。 そんなことを考えてしまう。 余命1年。 大人の俺だって そんな事実を突きつけられたら 泣きわめいて自暴自棄になるだろう。 でも彼女はいつも凛として きらきらとした眼差しで 世界を真っ直ぐに見つめていた。 俺にはなんともなく見えている 窓の外の景色が 彼女にはきっと とても美しく見えているのだろうと 彼女の眼差しから分かった。 彼女はあの小さい肩で どれだけのものを背負い ここまで生きてきたのだろう。 そんな想像をするのも 彼女には失礼な気がした。 でも俺は知っている。 よくうっすらと目に泣いた跡が あったことを。 階段の裏で 声を殺して泣いていたことも。 でも彼女はそれを 病気が彼女に与えてしまった強さで 周りに隠していた。 彼女が本当に恐れていたものは なんだったのだろう。 だから俺は知らないふりをした。 彼女のため、 彼女が彼女でいられるよう。 彼女が病気に隠されないよう。 いや、 自分のためだったのかもしれない。 そんな理由は俺の弱さを隠すための 言い訳なのかもしれない。 彼女は1度だけ 「ここは唯一私が私でいられるんです。 先生がいるから。」 そんなことを言っていた。 彼女のいつもきらきらした瞳は その時だけは 少し悲しい色を帯びているような気がした。 彼女に出会った春。 暑さの中くだらない話をした夏。 彼女が合唱祭の歌を楽しそうに口ずさんでいた秋。 そして、彼女が「。」を迎えた冬。 少しずつ でも着実に「。」に向かう彼女には この世界がどう映っていたのだろう。 寒さが肌をさす冬。 彼女は病院にいた。 確かあの日は吹雪で 俺は彼女のいる病院へと 足を運んだ。 毎日放課後になると 保健室に来た彼女。 そんな彼女に俺が唯一できること。 それは今度は俺が 彼女のいる場所へと行くことだと思った。 俺が行くことで彼女の 抱えているものや 気持ち。 色々なものが軽くなるだとか そんなことは思っていなかった。 ただ、ただ。 彼女に会いに行かなければと 俺が強く思った。 病院にいる彼女の瞳には あの輝きはなく ただ遠くの景色が ぼんやりと映っていた。 俺が来ると いつも笑顔を見せてくれる彼女。 もし無理やり彼女が 笑顔になってくれていたのだとしても それでよかった。 少しでも 少しでも長い時間 彼女には笑っていて欲しかった。 でもあの日 彼女は泣いていた。 俺の前で泣いたのは あの日がはじめてだった。 なんて 彼女になんて 声をかければいいのか。 分からなかった。 大丈夫?も 無理するなよも 違う気がしたから。 だから俺は 彼女の背中をさするでもなく ただティッシュを渡した。 これが彼女が 俺が守りたかったものだと信じたのは 俺のためだろうか。 春。 桜の花びらが まぶしいくらい透き通った空に舞う。 彼女は桜を見たがっていた。 見ているだろうか 彼女もこの憎らしいほどに 美しい桜を。 手にのった桜の花びらを 俺は空高くかかげた。 彼女に見えることを信じて。 彼女が迎えた「。」のその先を この世界で俺は生きていく。 これは「。」を迎えるまでの 彼女の人生の そして「。」の先の物語。

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「。」のその先

ベランダ

「何が欲しい?」 彼が口から吐いた白い煙は 夜の暗闇の中に消えた。 「何もいらないよ。」 彼からはいつもタバコの匂いがする。 私はタバコが嫌いだ。 もちろんタバコの匂いも。 でも不思議と彼の匂いであるそれが 別に嫌いではなくなった。 いや、むしろ好きなのかもしれない。 いつの間にか彼の手からは タバコが消えていた。 夜の風が心地よい。 私は彼が隣にいるベランダの夜が 多分すごく好き。 「ねぇ、本当になにもいらないの。」 私はタバコを吸い終わり 夜の暗闇を見つめる彼の横顔に そう問いかける。 あと3日で、彼が生まれた日。 だから何かを彼に渡したかった。 でも私には彼が何かを欲しいのかなんて 到底分からない。 彼の家には、タバコと、洗濯機、 あとは、ラジオ。 その他にはほとんど何も無い。 それに彼は自分のことを話さないし 私のことも何も聞かない。 そんな彼との関係性がここちよくて その関係性に多分私は酔いしれている。 「何もいらない。全部あるから。」 生活感が感じられない ただの箱みたいな部屋を後ろに その言葉が私にはあまりに 嘘に感じた。 「全部って?」 「洗濯機と君。あとはラジオ。」 洗濯機とラジオに挟まれる私。 彼は私の名前を呼ばない。 でもそれでも 彼に君と呼ばれるその度に 心があたたかくなるこの感覚。 多分これを人は幸せというのだろうと 柄にも無いことを思うくらいに 私の心は満たされる。 「私夜が嫌い。」 私はそう彼ではなく 暗闇に言葉を向けた。 まるで言葉が暗闇に溶けていく みたいだった。 「俺は好きだよ。」 彼が好きな夜を私は愛せない。 「ねぇ、泊まってもいい?」 今度は暗闇ではなく 彼に言葉をこぼす。 「だめだよ。帰らなきゃ。」 そう言って彼はまたタバコに 火をつけた。 2人の言葉が暗闇に溶けていく。 しわだらけの白Tとセーラ服。 その不釣り合いな歪さを 夜だけは埋めてくれる気がした。 彼の吐き出した白い息もまた 暗闇に溶けていく。 「苦しい時は飛んできていいから。」 彼はそう暗闇に言葉を吐き出す。 ひとつだけ輝く空の星が少し鬱陶しかった。 彼が部屋に入る。そして電気をつける。 あぁ、帰らなきゃ。 彼がベランダにいる夜の時間が 私はだから好きだ。 彼がドアを開ける。 足が床にくっつかないかなんて 馬鹿なことを考えるくらいに 私は子供で そしてドアを開ける彼は大人だ。 何も考えない。 ただ足を進める。 このドアの先の暗闇の中では 私は彼が呼ぶ君ではなく 私が大嫌いな私になる。 ドアの中と外。 その境界が分からなくなるくらいに 多分酔いしれてたのは 夜の暗闇のせいだ。 瓶が割れる音。 大嫌いなタバコの匂い。 押し付けられるタバコ。 悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴。 多分これは現実。 そう分かってしまうほどに 私が嫌いな夜は 私の目に 世界の終わりみたいに映った。 毎日毎日毎日 私はループしている。 「苦しい時は飛んできていいから。」 彼の声が悲鳴の中で 頭にこだまする。 視界の端のベランダ。 彼の声。 鬱陶しい星。 夜の暗闇。 私は足を踏み出した。 次に会いに来た彼女の背中には 羽が生えていた。

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ベランダ