碧満

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碧満

あおみです。春から受験生。 不定期投稿常習犯。完全自己満。

三 舞耶

朝七時の目覚まし時計。 朝が苦手じゃない私はいつも自分で起きている。 ママの作るおいしい朝ごはんを食べる。 今日は食パンと目玉焼きにサラダ。 今日はいつもより学校がほんの少しだけ楽しみだからお気に入りの服を着ていく。 パパが買ってくれたピンクラテのブラウスの上からジェニィラブのギンガムチェックのビスチェワンピースを着る。 白のフリルがついた靴下を履いてアルジーのコートを羽織る。 最後にメゾピアノのブラウンのランドセルを背負う。 「いってきまーす。」 アディダスの可愛いスニーカーを履いて勢いよく扉を開ける。 こんなにルンルンで学校に向かうのはいつぶりだろう。 いつも下を向いて歩いていた通学路も周りを見ながら歩けばたくさんの発見があった。 鳩と雀だけかと思っていたらカワセミがいたり、花だって春ほど多くはないけど可愛い花がたくさん咲いている。 通学路ってこんなに楽しいんだ。 無意識に早歩きしていたのかいつもより早く学校に着いた。 上履きに履き替えて自分のクラスに向かう。 四年一組は東校舎の三階の隅だ。 靴箱から少し遠いけど図書室が近いから嫌いじゃない。 教室の扉を開ける。 いつも学校に着くのは早いけど私の前にもいるみたい。 上には上がいるってことね。 愛梨と凛も、もう来ている。 さすが、優等生の二人。 「おはよー!」 いつもよりも明るい声が自然と出た。 「なんかいい事あった?」 「頭打った?」 二人の声が同時に聞こえてくる。 私、聖徳太子じゃないんだけど。 「別に〜。」 頭打った?に対しては本当だけど、いい事あった?に対しては嘘。 「え?」 「は?」 また、二人の声が同時に聞こえてくる。 だから私は聖徳太子じゃないんだけど? ほんと、この二人息ぴったり。 席に着いて海底二万里の続きを読む。 やっぱり海底二万里は面白い。 Googleで調べてみたらつまらないとかあったけどそんなことは無い。 きっと読んでる人がつまらない人なのよ。 つい夢中になってると声が聞こえてきた。 「はよ。」 隣の席の成都。 「おはよー!」 また自然と明るい声が出る。本当に不思議だ。 「お、今日はご機嫌なんだな。巨人。」 は?今なんて言った? 「ばか、お前がチビなだけだよ。」 とりあえず、いつも通り言い返す。 なんで、昨日あんなに説教されたばかりじゃん。 反省文だって家で書いてきたんでしょ。 なのにどうして私にはいじめをするの? 一人、悲しんでいると朝の学活が始まった。 朝学活の話が頭に入るわけはなくただぼーっとして終わった。 でもその間に少し考えた。じゃあ舞耶はどうなの? 辺りを見回すと舞耶をたくさんの女子が囲っていた。 その中には衣織や愛梨、凛もいた。 転入生かよ。 「巨人はあそこに行かないんですかー?」 「成都うざい。黙れ。」 私は相変わらずいじめの対象。 舞耶のせいで私のいじめは取り上げられなかった。 舞耶がいなければ私のいじめ問題が取り上げられて今日から楽しい学校生活を送れていた。 舞耶さえいなければよかったのに。 あんなやつ、私立の小学校にでも行っとけばよかったのに。 いや、待てよ。本当に舞耶はいじめられていたの? 確かに周りの子よりも遥かに頭は良くて浮いていたけど、いじめに本当にあっていたの? 先生は昨日の説教の中で犯人の名前を言っていなかった。 まだ犯人はわかってないってことだよね? そもそもいないかもしれない。 だとしたら舞耶の自作自演になる。 舞耶は低学年の頃から塾にたくさん通っていて友達は少ない。 それを利用して自分がいじめられていることにして、いじめアンケートに嘘の内容を書く。 新井先生はきっと授業やどこかで取り上げる。 そしたら優しい女の子たちが集まってくる。 舞耶は頭がいいからきっとそこまで見当がついていたんだ。 だから実行した。 きっとそう。 誰も舞耶をいじめていない。

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三 舞耶

二 加害者

…は? 何言ってんの、先生。虐められてるのは私。 黒木舞耶みたいな天才が虐められる要素どこにもないじゃん。 たくさんの子と仲良いじゃん。 「ゴミ箱の中に折り紙が丸められて捨てられててなんだろうと思って開いたら“黒木を無視しろ”って書いてあったよ。」 見られないところでこそこそやられてたんだ。 私と同じなんだ。 「黒木は小三からずっといじめアンケートに書いてたそうだ。」 “クラスの人から無視されてる気がする。” え、書いたら先生は見てくれるの? 私が書いたとき、その担任は何もしなかった。 そこからはもう諦めて一度も書いてない。 黒木だから何か先生は行動を起こすの? 天才だから?凡人の私はどうでもいいの? 悲しさと怒りで感情がぐちゃぐちゃ。 「“加害者”という言葉がある。相手に危害を加える人の事だ。 これはこのクラスの全員に当てはまる。」 ちょっと待ってよ。私、何もしてないんだけど。 「先生、私は何もしてないよ。それでも加害者なの?」 衣織だ。ナイス。私の心の声を見事に言ってくれた。 「何もしてない。それだって加害者だ。 見て見ぬふりをした、そういうことだろ。」 先生が声を荒らげた。 「いじめアンケートに書かれた日から俺は怖かったよ。 黒木が学校に来れなくなったらどうしようって。 いじめっていう言葉があるけどお前らがやってる事は犯罪だからな。少年法に守られてる、ただそれだけなんだよ。 このままお前ら、大人になったらすぐに訴えられるからな。」 本当に何もしてないのに、知らなかったのに私。 自分で精一杯で周りなんか見てないし、知らない。 それなのに迫力のせいか先生の言葉が全部、私に当てはまるような気がしてくる。まるで洗脳だ。 いくら冬休み直前の寒い日といえど暖房のついた暖かい教室の中で手が震えているのはきっと、恐怖のせい。 見たことない先生の怒りにまみれた顔と聞いたことのない怒鳴り声に怯えてると一つの声が聞こえてきた。 「先生、黒木に謝ってきてもいいですか。」 立ち上がってその声をあげたのは隣の席の中川成都だった。 やっぱり、お前は先生の前では良い奴ぶるんだ。 「あぁ、いいよ。」 成都は歩いて舞耶の前に行く。 「酷いことした。ごめん。」 舞耶が小さく口を開く。 「いいよ。」 成都に続いてみんなが立ち上がる。 舞耶の前には列ができている。 私は座っている。 なんかこれ、みんなが行かないといけない雰囲気じゃない? 重い腰を持ち上げ、列の最後尾に行く。 みんなが自分の思いを舞耶に伝えてる。 私、話すことないんだけど。 焦っている時ほど時間は短く感じるもので、 もう舞耶の目の前に来ていた。 「知らないふりしてごめん。」 咄嗟に出た言葉。自分で驚く。 「いいよ。」 私は何に対して謝って、何に対して許しを得ているんだろう。 「ありがとう。」 謎の感謝を伝え、席に戻る。 私、何やってるんだろう。 黒木舞耶と関わったことなんてほとんどないのに。 クラスだって去年、同じになったばかり。 まともに話したこともない。 ほぼ初対面での会話が謝罪とか、どうかしてる。 先生の説教とみんなの謝罪で五、六時間目が終わっていた。 なんだ、この無駄な時間は。 今日の宿題は漢字ドリルでもなく計算ドリルでもなく、 反省文らしい。 計算ドリルがないのはありがたいが、反省文を求められたところで書くことは何も無い。 重い脚を振り上げ家に帰る。 私の家は学校から遠くて、歩いて二十五分。 長いな。 嫌なことは早く済ましたい私は家に着いてすぐ、筆箱と原稿用紙をランドセルから取り出した。 反省文なんて書いたことない。 どうやって書くんだろ。 “私は今日の説教でいじめはダメなことなんだと改めて感じました。もう二度としません。” まぁ私、何もしてないんだけどさ。 “でも、もしいじめがおきてしまったら、絶対に止めます。” “黒木さんとはほとんど話したことないけどこれからたくさん話します。仲良くなります。” ここは本音。 “それが私ができる最大の償いだと思います。” 罪は犯してないけどね。 “でも黒木さんだって、悪いところはあると思います。いじめる側にもいじめられる側にも原因はありま” やっぱやめよ。そう思ってここの二文は消しゴムで消した。 これじゃあ自分のことを悪く言ってるみたい。 原稿用紙はまだまだ余ってるけど、もう書くことないや。 私、部外者だし。 あーあ、黒木のせいで私のいじめ問題は影に隠れちゃった。 いや、でももしかしたら私へのいじめもなくなるんじゃない? そんな淡い期待を胸に夜九時、ベッドに入って眠る。 明日から私の学校生活が一変するといいな。

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二 加害者

一 学校生活

私は瀬島星那。神奈川県八重市立渡里小学校四年一組。 まだ小学四年生だというのに身長は一五○後半。 この身長のせいでクラスの男子達から虐められています。 「おい巨人。」 うわ、出た。こいつが上條渉。 「無視すんなよ。」 「私の名前は巨人じゃない。」 「実際、巨人じゃん。」 「じゃあこう言ってあげましょうか?」 「なんだよ。」 「お前がチビすぎて見えなかった。」 「は?黙れや。」 「喋りかけたのも聞いてきたのもあなたよ。」 私が虐められる原因は身長が高い以外にもう一つ。 言い返してしまうこと。 多分、無視したらいじめはなくなるだろう。 でも私の負けず嫌いな性格上、無視できない。 「星那ちゃん、あんなやつら無視していいんだよ?」 「そうだぞー。」 清水愛梨と比嘉凛。 比嘉凛は今年、沖縄から転入してきた。 でも家が近いのもあってすぐ仲良くなった。 「だって、やられるまんまじゃ嫌じゃない?」 「星那らしいわ。愛梨、諦めよー。」 「それもそうだね。」 これくらいの気軽さが私にはちょうどいい。 「あ、そろそろ時間。席につこ。」 私は今の席が嫌い。なぜなら中川成都が隣だから。 「おい巨人。」 四年一組の男子の口癖はおい巨人なのかな? まるでジャイアンじゃない。 「無視かよ、うっざ。」 イッタ。多分、こいつが一番タチが悪い。 先生のいないところで殴ってくるから。 だから先生も知らずにこんないじめっ子を私の隣の席にする。 いや、先生なら気付けよって感じだけどまぁしょうがない。 担任の新井康二先生は新米先生だから。 ママが家で言ってたの。 新井先生は新人だから失敗が多いのよって。 きっといじめに気付いてないのも一つの失敗。 キーンコーンカーンコーン 「ごめんごめん。遅れた。号令お願い。」 ほら、今日も遅れた。 多分また、四年二組の先生に怒られてたんだよ。 いっつも怒られてるから。イケメンなのにもったいない。 「また先生、遅刻だね。」 こそこそ話で話しかけてきたのは後ろの大泉衣織。 「だね。」 この子は親がファッションデザイナーでおしゃれ。 それに加えて美人さん。 日直の号令で算数の授業が始まる。 国語は好きだけど算数は嫌い。数字しかないじゃない。 日本語の美しさを算数は知らないみたい。 今日は、面積の求め方。 出来なくはないけど、やりたいと思うようなものではない。 「じゃあ、この問題を黒木さん。」 「十六平方センチメートルです。」 黒木舞耶。中学受験するらしく、頭がいい。 私も頭はいい方だけど比べ物にはならないほど。 「二問目は、瀬島さん。」 「三十五平方センチメートルです。」 「惜しい、三十六だ。」 また間違えた。だから算数は嫌い。 キーンコーンカーンコーン 「ありがとうございましたー。」 次は…給食だ、 給食は嫌い。栄養士さんが変わってから不味くなった。 かと言え、残させてくれない。全部食べないと。 本当に憂鬱。五、六時間目は学活。 早く五、六時間目になってくれないかな。 「お、珍しく巨人がぼーっとしてる。」 永井拓人。うるさい。 親が政治家らしく先生はみんなペコペコしてる。 「給食当番なんだからさっさと準備したらどう?おバカさん。」 「さっき問題間違えてたくせに。」 「誰だって間違いはあるわ。」 今日の給食は白米、味噌汁、柚子和えサラダ、鯖の煮付け。 栄養士さんは和食が好きらしい。 残念だけど私は洋食派。 どうして柚をサラダに入れちゃうのかしら。 柚はお風呂に入れるのが一番いいのよ。 嫌なものは早く終わらせた方が楽だから、大きな一口を沢山食べる。どうして給食はこんなに量があるんだろう。 やっと憂鬱な給食が終わった。 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。 運動が嫌いな私はいつも教室にいる。 本当は外に出なきゃいけないルールだけど、本棚とロッカーの細い隙間にいつも隠れて逃れているの。 「みんなー外に出ろー。」 新井先生だ。 新井先生の声が聞こえたのと同時にみんなが外に出てく。 みんなが外に出たことを確認して、新井先生も外に出る。 ほら、今日もバレなかった。 いつも通りパーカーのポッケに忍ばせた小説を読む。 最近は海底二万里にハマっているの。 なぜだかみんな、読みたがらないけど。 文字しかないからかな? でもSFの父、ジョール・ヴェルヌが書いたのよ。 最高に面白いんだから。 みんなが戻ってきた。もう昼休みは終わり。 学活だ。今日は何も知らされてない。 レクかな?あ、珍しく先生がチャイム鳴る前からいる。 キーンコーンカーンコーン 「今日はみんなに話さないといけないことがある。」 「お前ら、いじめをしてるだろ。」 先生!やっと気づいたの?遅いよ。 やっとこれで巨人地獄から解放されるんだ。 「黒木舞耶に」 …は?黒木? 私じゃないの?

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一 学校生活

−登場人物 “瀬島星那” せしませな 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 身長が高いが故に小二の頃から虐められている。 “黒木舞耶” くろきまや 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 小三の頃から虐められている。理由はわからない。 “新井康二” あらいこうじ 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組担任 新卒。新卒なりに頑張ってる。 “比嘉凛” ひがりん 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 四月に転入してきた。星那の親友。 “清水愛梨” しみずあいり 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 星那が一年の頃からの友達。 “大泉衣織” おおいずみいおり 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 星那が三年の頃からの友達。舞耶とも仲がいい。 “永井拓人” ながいたくと 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 星那を虐める男子。 “上條渉” かみじょうわたる 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 星那を虐める男子。 “中川成都” なかがわせいと 神奈川県八重市立渡里小学校四年一組 星那を虐める男子。隣の席。 この物語はフィクションです。

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零

暗証番号

夜十時。 最近は同棲中の彼の帰りが遅い。 まだ帰ってこない。 いつ帰ってくるの? きっとマンネリ化っていうやつ。 もう同棲して三年半。 何も変わり映えしないから。 私が自分磨きを怠ったのもマンネリ化の一つの原因。 髪も服も適当。 二十六年生きてきてわかったの。 女の子って大変ね。 だって、私がどんな姿になっても愛してくれるって信じていたの。 ちょっと、いや、自惚れすぎていた。 よく宅配ボックスの五番のところに彼へのプレゼントを入れていた。 最後に入れたのは一か月前。 まだ彼はプレゼントを取っていないみたい。 嫌になって暗証番号を変えた。 もうきっと彼が開けてくれることはない。 最近は朝食も食べてくれなくなった。 そんなに私の作るご飯、美味しくない? それとも飽きたの? 今朝は昨日の夜、あなたが食べてくれなかったカレーライスだよ。 味付けをネットで調べたの。 でも分からなかった。 それぞれのさじ加減だってさ。 彼も時々、宅配ボックスの二番のところにプレゼントを入れてくれる。 今日は少し気になって開けてみる。 …開かない。 なんだ、私が暗証番号変えてたとこ、気付いてたんだ。 あなたも変えたのね。 ちょっと前まで2人にしかわからないノリだとか笑いだとかあったのに。 今では、同じ部屋の中にいるのに二人とも話そうとしない。 これじゃ部屋とは言えない。 ただの箱。 宅配ボックスの五番のところ。 暗証番号、戻してみようかなとも思ったけどやっぱりそのままにしておく。 期限がくるまでプレゼントと思い出は固く閉ざしとく。 それが一番いいと思うの。 歌 3636/あいみょん 詩 あいみょん 曲 あいみょん 完全自己満です。 もしかしたら今後も作るかも?

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暗証番号

1文字目

好きな人と手を繋げる。 好きな人を抱きしめられる。 好きな人の隣に居れる。 でも結ばれることはない。 私にとって恋愛とは喜びと悲しみの組み合わせだ。 LGBTQなんてものが最近、世に広まりつつある。 それが良い兆しなのか悪い兆しなのか私には分からない。 ただ、これのせいで私が生きにくいのは確かなこと。 私は頭文字のL。 レズビアンだ。 私は女子だけど好きになるのも女子。 どうしても男子は恋愛対象に見えない。 修学旅行でおなじみなのは多分、寝る前の女子同士の恋バナ。 私はそれにどうもついていけない。 私のターンになるといつも適当に誤魔化してきた。 でも、私に好きな人がいないわけじゃない。 女子なら好きな人がいる。 ただそれを女子に言ったらきっと、嫌な目線を向けられるのだと思う。 私は何に関しても曖昧になるのが嫌いだからしっかり区別をしていた。 なのに今回は崩れてしまった。 親友を好きになってしまった。 元々距離感は近かった。 スキンシップだって多かった。 でも恋愛と友情は区別していた。 したかった。 できなかった。 2人で電車で移動するとき眠くなって肩を借りると頭を撫でてくれる優しさが好きだった。 こんなにも距離は近いのに、結ばれることはない。 その現実に心を締め付けられる。 もし、私が男子に生まれていたら、結ばれていたのか。 仮に今私が告白したら彼女はどんな反応をするのか。 OKしてくれるのか。 困惑されるかのか。 距離を置かれるのか。 恋愛となるといつもいつも、苦しい思いしてきた。 男子を好きになりたい。 そしたら修学旅行でおなじみの恋バナだってできるし、気兼ねなく恋愛だってできる。 苦しみも悲しみも忘れて恋愛をしたい。

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1文字目

二番目

『私はいつも二番目。 愛されてる自覚はある。 でも私は一番がいい。 私には二つ下の弟がいる。 ちょっと顔が整ってて、優しくて、バカ。 私とは正反対。 ブスで、優しくなくて、でも頭はいい。 顔がいい方がみんな好き。 性格がいい方がみんな好き。 バカな方がみんな好き。 小さい頃からわかってた。 だから一番になりたくて可愛くなれるよう努力した。 優しい人間になれるよう努力した。 バカなフリをした。 それでも愛されたのは弟だった。 愛羅。 親が愛される子になるようにとつけてくれた名前。 その名前は役割を果たしていない。 弟が小三のとき、骨髄炎になり入院した。 家のゲーム機は全部、病院に持ってかれた。 弟が小五のとき、起立性調節障害になった。 私は同じ時期に原因不明の病で息するたびに肺が痛かった。 優先的に病院に連れていかれたのは弟だった。 弟は学校に行けないだけ。 私は生きてるだけで痛かった。 そのとき、私より弟の方が愛されているのだと改めて痛感した。 それでも弟を憎むことはできなかった。 命の恩人だから。 ある日、父親が包丁を手に取った。 「もう一緒に死のうよ。」 私はただ怖くて、逃げることもできなかった。 そのとき、弟が泣きながら父親をとめてくれた。 弟がいなかったら私はきっと刺されて殺されていた。 時々、あのとき止めずに殺してくれればよかったのに、と考えるときがある。 それでも今の私がいるのは間違いなく弟のおかげ。 だから私は弟を憎めない。 自分を憎むしかない。 私は自分が嫌い。』 初めて自分の話を人に話した。 中学生の頃。 部活の異性の先輩だった。 私は小学校低学年の頃から小学校を卒業するまでずっといじめられていた。 気づいたら笑顔のやり方を忘れていた。 それでも笑わなきゃいけないときがあるから毎日、鏡の前で笑顔の練習をしていた。 だから、笑顔には自信があった。 その偽物の笑顔を唯一、見破った人。 それがその部活の先輩。 仲が良くて家が近かったからよく一緒に帰っていた。 そのとき突然言われた。 「愛羅ちゃんって心から笑わないよね。」 驚いた。 そんなこと初めて言われた。 「そんなことないですよ。」 いつも通り偽物の笑顔を作る。 上手くできた、そう思ったら、 「それ!愛羅ちゃんっていつもその笑顔。」 もう何も返す言葉はなかった。 「何か悩みがあるなら話してほしい。無理にとは言わないけど。」 その先輩はまさに完璧という言葉が似合う人だった。 私が一番、嫌いな言葉。 頑張れ。 みんな、よく使う。 でもその先輩に、言われたことはなかった。 「愛羅ちゃん!頑張って!って言おうと思ったけど、愛羅ちゃんいつも頑張ってるからなー。程々にね。」 この人はいつも私の心を完璧に読む。 恐ろしい人だ。 そんな恐ろしい人は大学生になった今、 私の隣にいます。

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二番目

1人

この話は「2人」の続編です。 「2人」を読んでない方はそちらからお願いします。 塩田優也。 俺はこいつの幼なじみだ。 そして片想い中。 俺は多分ゲイとかいうやつ。 小学校高学年あたりからなんとなく自分の気持ちに気づいた。 でも優也は女子を好きになる。 だから少しでも見てほしくて苦手だった勉強、スポーツを頑張った。 高校も優也と同じところに行きたくて死ぬ気で頑張った。 そんな俺の努力を踏みにじるような出来事があった。 優也に裏切られた。 たまたま見てしまったんだ。 優也がクラスの男子に嘘の話を吹き込むところを。 信じられなかった。 自分が今までずっと信じてきた優也はそんなやつじゃない。 もっと穏やかなやつ。 なんで、そんなことをするんだ。 そんな疑問は心に浮かばなかった。 確信を持ててしまうような心当たりがあったから。 俺は中学の時、優也の彼女を奪った。 女子には興味無かった。 ただ、優也を取られたことがショックだった。 だから優也の彼女を奪った。 でもすぐに振った。 それがきっと良くなかったんだ。 心のどこかで気付いてた。 間違ってること、 でも、もう、戻れないんだ。 優也をどうしたら手に入れられるのか、それしか考えられない。 次の日、いつも通り学校に行くと当たり前のようにみんなが俺の嘘の話をしていた。 優也はその日学校を休んでいた。 犯人が誰かわかっていてもホラ話というのは辛いらしい。 とりあえず明日は学校を休もう。 昨日学校を休んでじっくり考えた。 俺はどうしたらいいのか。 思いついたんだ。 被害者になればいい。 門が開くのと同時に学校に入る。 教室に行って自分の机に落書きをする。 面白くない落書き。 終わったらトイレに行く。 個室に入る。 便器に上履きを落とす。 その上履きを靴箱に戻してスニーカーを履いて一度外に出る。 我ながら完璧だ。 そろそろ時間だ。 あらかじめ濡らしておいた上履きを履いてあらかじめ落書きしておいた席に着く。 優也が声をかけてくれる。 「おはよ。」 想定通りだけど少し驚く。 「はよ。」 こっちを見る。 気づいてくれたかな。 「匠人いじめられてるでしょ。」 優也は騙されてくれてるみたい。 「どうして言ってくれなかったの。」 「言ってくれたら守ってあげられたのに。」 最高。 「今からでも守ってくれる?」 「僕がNOって返事すると思う?」 「あんがと。」 これでもう優也は俺から離れないんだ。 ずっと二人で一緒にいようね。

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瀬尾匠人 僕の幼なじみ。 幼稚園から一緒で高校生になった今でも一緒にいる。 朝、いつも通り教室に入るとみんなが何かを話している。 でも興味が湧かないからいつも通り席に座って本を読む。 八時十五分。 匠人が教室に来る時刻。 ここまではいつも通りだけどこれだけはどうやら違うらしい。 『どうした?匠人らしくない。』 LINEを送る。 既読はつかない。 結局その日は来なかった。 翌日、いつも通り教室に入る。 みんな何かを話している。 今日は少し気になった。 隣の席で何人か集まって話をしていたから聞いてみた。 【瀬尾のやつ、中学校でいじめっ子だったらしいよ。】 【まじかぁ。イケメンで狙ってたからちょいショックだわ。】 【そんな理由かよ。あんたらしいわ。】 【とにかく、あいつやばいらしいから一緒にいない方がいいよ。】 嘘だ。 中学校で匠人はいじめなんかしてない。 匠人は男女関係なくみんなから好かれ、いじめをするどころか止める側だ。 高校に同中だった人は僕しかいない。 今日も学校休んでたら家に行ってみよう、そう考えていたとき教室の扉が開いた。 匠人だ。 みんなが一斉に振り向くのがわかる。 でも誰も声をかけない。 挨拶くらいしたっていいのに。 「おはよ。」 僕が声をかけると 「はよ。」 と、お前は蚊かとツッコミを入れたくなるほど小さな声が帰ってきた。 よく見ると匠人の上履きは濡れていた。 あぁ、そういうこと。 放課後、いつも通り匠人と一緒に帰路につく。 「匠人いじめられてるでしょ。」 匠人の肩が震えたのがわかる。 「どうして言ってくれなかったの。」 返事はない。 「言ってくれたら守ってあげられたのに。」 間が空く。 「今からでも守ってくれる?」 「僕がNOって返事すると思う?」 「あんがと。」 僕は匠人を守ってあげなきゃいけない。 だってあの嘘を流したのは僕だから。 顔が良くて、頭も良くて、運動神経もいい、まるで少女漫画の登場人物。 そんな匠人にずっと嫉妬していた。 いや、嫉妬どころじゃない。 中学生の頃、当時僕が付き合ってた彼女をとられた。 今までの恨みが積もって嘘の話を流した。 でもいじめに繋がるなんて思ってなかった。 モテる人生をモテない人生にしてやりたかった。 こんなことになるなんて。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ずっと守ってあげる。 後日、匠人目線の話を投稿します。 そこでこの話は完結します。

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30分前

僕は正月が嫌いだ。 正直に言って何がおめでたいんだ。 おせちは不味いし年賀状書かされるし、いいことなんて一つもない。 でもそんな僕でも楽しみは一つくらいあった。 餅だ。 小さい頃から偏食だったが、お餅は大好きで毎日のように食べている。 正月は正月にしか食べれない鏡餅がある。 あの鏡餅の特別さ、が大好きだった。 今日は祖父の家に行く。 親はもう仕事が始まっていて忙しいらしく僕だけで行く。 インターホンを鳴らす。 いつも祖父は元気よくはーいと出てくれるが今日はない。 買い物にでも行っているのか。 でも今日僕が来ることは知っているはず。 ドアノブに手をかける。 当たり前だが鍵がかかっていた。 扉の前に座り込む。 一時間経っても帰ってこなかったから、寒いし家に帰ることにした。 親が帰ってきた。 今日のことを話すと親は固定電話に電話をかけた。 出なかった。 嫌な予感がし、もう一度全員で夜だが行ってみた。 インターホンを鳴らす。 反応がない。 ドアノブに手をかける。 鍵がかかっている。 合鍵なんか持ってない。 警察に行ってドアを壊してもらい中に入った。 祖父は倒れていた。 みんなの顔が青くなっていくのがわかる。 時が止まったようにみんながぼーっとしていた。 「じいちゃん!」 僕が叫びみんながはっとして祖父に駆け寄った。 亡くなっていた。 死亡解剖の結果、餅を喉に詰まらせて亡くなったそう。僕が祖父の家に着く三○分前だった。 僕がもう少しだけ早く着いてたら、助かっていたのかな。 僕は正月が嫌いだ。

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30分前