ジノ
8 件の小説涙が出る女の子
あるところに、いつも涙が出てしまう女の子がいました。 悲しいことはなにもありません。 つらいこともありません。 けれど、いつも意味のない涙が出てしまうのです。 女の子は笑顔が素敵な元気な子で 「大丈夫!いつものことだから」 と明るく笑っていました。 なので、周りの人もみんな あぁ、あの子はいつも涙を流す症状を持っているんだな、と思うようになりました。 しかしある日、女の子の飼っていた猫が死んでしまいました。 だいじにだいじに、愛情をかけていた猫でした。 女の子は、それはもう悲しくて悲しくて、涙が止まりませんでした。 その日、女の子は初めて自分の気持ちによって、涙を流したのです。 街中を、ぽたぽたと涙を溢しながら泣いている女の子を見て、人々は 「あぁ、いつものか」と思いました。 そうして、彼女の涙が悲しみを溢していることに、気づく人は誰1人いませんでした。 夕暮れ時になりました。 女の子はまだ泣いていて、パン屋の入り口の前に座り込んでいました。 すると、パン屋のおじさんはそんな彼女を心配に思い 「おうちにかえらなくて、いいのかい?」 と聞きました。 女の子は黙ったまま、涙を流しました。 おじさんは、女の子の様子を伺い、そして店の中に戻りました。 しばらくして、おじさんは女の子の大好きなクリームパンとハンカチを手に取り、隣に座り込みました。 「つらいことが、あったんだね。」 ようやく、彼女の涙の意味に気づく人が現れました。 女の子は、やっと自分の気持ちを理解してくれた人が現れた事に気づきました。 その途端、びょおびょおと鼻を垂らして、大粒の涙をたくさん流しました。 女の子は、たくさん、たくさん泣きました。 今まで我慢していた分があふれてしまいました。 女の子はずっと、おじさんの隣で泣いていました。 やがて泣き疲れ、眠ってしまいました。 おじさんは女の子をおんぶし、家まで送り届けました。 翌朝から、女の子が泣く事はもうありませんでした。 一生分の涙を流したのでしょうか。 昨日の涙が最後となりました。
ミユリを愛した故に。
こんばんは。 今夜は貴方が、私のお話を聞いて下さるのですね。 …まだ新人さんですか⁇ 顔色が悪いですよ。 …あぁ、私を気の毒に思っているのですか。 人を殺め、今夜処刑される、この私を。 心配しないで下さい。 私は全く怖くありませんから。 それに、この世界に心残りも何もありません。 私の話を聴いていった者達は、身体を震わせ、 皆口を抑えて部屋を出ていくのですが…。 貴方は大丈夫ですか。 無理をせずとも、直ぐにこの部屋を出て行って構いませんから。 …まぁ、私にとって、最期の夜だ。 少しばかりは無理をして下さい。 もしかしたら、貴方には理解できるのかもしれない。 私の気持ちが。 …それでは、宜しくお願いします。 始まりは、とある出会い掲示板サイトでした。 私はそこで、“妻になるに相応しい人”を求めていました。 財産には余裕がありました。 私は、妻には綺麗に着飾り、とびきり美味しい食事を味わい、美しい生活を歩まれる事を望んでいました。 何せ、手元に置く人間は、私の顔が立つ様な人間でいないと。 だから、 「贅沢な暮らしをしたい方。私が最高の生活を贈ります。」 と、書き込みました。 すると、一通のメッセージが届きました。 若い、24歳の女性でした。 「都内に住んでいます。もし宜しければ、お食事に 行きませんか⁇」 と、送られてきました。 顔はよく見えない写真でしたが、雰囲気から分かる美しさが、私の心を惹きつけたのです。 私は直ぐに返信をし、食事の約束を取り付けました。 そして、約束の日の夜。 私は駅前で彼女を待っていました。 すると、来たのです、彼女が。 なんとも美しい方でした。 彼女は、薄い茶色の目玉を持っていました。 艶やかな長い髪をなびかせて、こちらに歩いてきたのです。 「ごめんなさい、お待たせしました‼︎」 彼女の喉から出る声も、心地良い高さの音色で素晴らしかった。 一瞬にして、彼女の虜になってしまいました。 「…えぇ。私も今来た所ですよ。さあ、行きましょう。」 私は恥ずかしながらも声を震わせて、彼女を店まで案内しました。 −−−すみません。少しお水を頂いても良いですか。 ありがとうございます。 ふぅ。 …あぁいえ、この話をすると、彼女を思い出してしまい。 つい、彼女に逢いたくなるのです。 可笑しいですね。 それでは、話を続けましょう。 その後、彼女と二人でディナーを楽しみました。 「凄い…こんな所生まれて初めて‼︎」 「そうかい⁇それはなによりだよ。」 彼女−−−巳百合(ミユリ)は、とても喜んでいました。 そんな彼女を見ていると、私もとても嬉しくて。 こんな素敵な女性に出逢えて、心底良かったと思えました。 そして… 「アズマさん。今夜はこんなに素敵なディナーをありがとうございます。」 彼女が、笑いました。 涙目になり、あの薄い茶色の目玉を輝かせて。 その瞬間、私はある強い衝動に駆られました。 私のものにしたい。 欲しい。 ぷつんと、何かが切れました。 それまで自分自身には無かったドス黒い感情が、芽生えたのです。 そこからは、よく覚えていません。 なんだったかなあ。 いつもここを忘れてしまいます。 確か、会計を済ませ、もう一軒目に入った様な気がします。 …あぁ。そこで薬を盛り、眠らせました。 そして、家に連れ込みました。 やっと、長年思い出せなかった事が、思い出せた。 貴方がこんなにも私の話を聴いてくれている、からなのかもしれませんね。 今まで、こんなにも熱心に話を聴いてくれる人は居ませんでした。 ありがとう。では続けます。 家に連れ込んでからの事は今でも鮮明に覚えています。 彼女に盛った薬は短時間の効き目の物でした。 なにしろ、反応はあった方が面白い。 ただの人形を弄るのはつまらないでしょう。 それゆえ、彼女が起きてしまう前にシーツの上に縛り付けました。 そして、服を脱がし、裸体を拝見しました。 これまた、美しかった。 程よい肉付きで、白い純白の肌だった。 まさに、私の理想。 最高の女性でした。 それを見たら、ドクン と私の心臓は激しく波打ちました。 今すぐにでもその身体に飛び付きたい。 触りたい。開きたい。ナカを見たい。 この美しい身体の中に、どれ程の不細工で汚れているモノを持つのだろうか。 いや、汚いモノなど無いだろうな。 真実が気になって、気になってしょうがなかった。 しかし、私は耐えました。 必死に、心の中で念じながら。 我慢しろ 我慢しろ 我慢しろ 我慢しろ 我慢しろ 我慢しろ 我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢 −−−私は必死に欲望を抑えました。 我ながら、よく我慢出来たな、と思います。 そして、2時間ほど経った時、彼女が遂に目を覚ましたのです。 「…え」 「あぁ…巳百合‼︎ようやく目を覚ましたのかい‼︎」 「は…⁇え何、これ…なんで裸なの…⁈」 「あぁ、すまない。君の事をもっと知りたくてね。服は脱いでもらったよ。」 「意味分かんないんだけど…‼︎さっさとコレ取ってよ‼︎」 彼女はとても焦っていました。 額に汗を滲ませ、震えていました。 その様子が小動物の様で…とても愛らしかった。 「どうしても、君のナカが見たくて。」 「ナカ…?」 私は家に置いてある工具箱を準備しました。 何せ、今まで「ナカを見たい」なんていう感情は持った事がありませんでした。 だから、解体器具も医療器具も何も持っていませんでした。 「巳百合…こうなると分かっていたらもっと沢山の器具が揃っていた筈なのに。」 「は…誰か‼︎殺される‼︎誰か‼︎‼︎」 「無理だよ。ここは山の外れにあるんだ。人は来ない。」 私が手袋をはめている最中、彼女はずっとうるさかった。 「コレ外してよ‼︎ねぇってば‼︎」 「今は静かにしてくれないかな?巳百合」 「早く取って‼︎」 ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、馬鹿みたいに騒いで、少々頭に来てしまった。 私は釘用ハンマーを手に取り、彼女の左手の人差し指を持って、 「うるさいよ。」 ゴリッッ 思い切り打ちつけました。 あの、骨がミシミシと潰されていく感触がたまらなかった。 その瞬間、家に響き渡ったあの断末魔がとても気持ち良いものでした。 「……あ ぁあうぅあ ぁああああぁあ‼︎‼︎‼︎」 血走った目が極限まで開かれ、歪み切ったあの顔を今でも忘れる事は出来ません。 アレは私の記憶の中の、一生の宝物です。 「いいかい、巳百合。これからまた、必要も無くうるさくしたら、次は二本一気にいくからね。」 「あ…ぁあ あ…うぅ…」 そこから、ようやく巳百合は大人しくなりました。 そして、待望の時間がきたのです。 「さぁ、巳百合。待たせてごめんね。酷い事はしないよ。我慢すれば、直ぐ終わる。」 私はナタを持ち、巳百合に近づきました。 「やだ…やだ…‼︎」 「大丈夫。安心して」 そして私は巳百合の右耳にナタを当て、ゆっくり ゆっくりと交差させました。 ぎゅちゃ ぎゅち ぐじゅ びち びち ぎゅちゅ ぎち ぎち こり ぐじゅ ざり ざり ごり ごり ごり ごり ごり ぽとっ びちゃっ 「ぎぃ ぃやああ ああぃああぁあうぁあ‼︎‼︎‼︎」 直ぐに殺してしまうのは勿体無い。 ですから、先ずは耳を落としました。 「ほら、巳百合。次はお腹だよ。ちょっと痛いと思うけど、巳百合なら大丈夫なはず。」 「いだぃい…あぁあ…」 工具用ハサミを腹に突き刺し、裂きました。 やはり人間の皮膚は硬い。 とても時間が掛かってしまいましたよ。 漸く切り終えた頃、もう彼女は息絶えていたのかもしれません。 なにしろ、止血などしていませんから。 やり方も知りませんし、無知な者が試みたってどうしようもないでしょう⁇ 彼女が静かになって嬉しくなった私は、どんどん彼女を開いていきました。 腹を裂く前、私は信じていました。 こんなに美しい巳百合に、汚いモノなど詰まっているのだろうか⁇ いいや、そんな事はあり得ないな。 きっと、ナカも美しく、純粋で可憐なモノなのだろう。 私は、期待に胸を膨らませながらヘソあたりを ぐにゅり と切り開きました。 そしたら。 「……ひっ?‼︎」 本当にあれは気持ちの悪いモノだった。 今でも吐き気を催します。 脂肪の塊と血と。 ソレが詰め込まれた彼女の腹の中は、まさに地獄絵図。 「な…何だコレは…⁇‼︎嘘だ…巳百合にこんな汚いモノなどある筈がない‼︎‼︎」 私は嗚咽を吐きながら、目を眩ませました。 認めない。 信じない。 巳百合は…違う‼︎こんなモノ無い‼︎ 私は、認めない‼︎‼︎‼︎‼︎ 無我夢中で、彼女の身体をナタで潰しました。 ぶじゅ ぐじゅ ぐじゃ ぐぢゅ どろり びちょ ぐちゃ ぐちょ びちゃ ぶちゅ ぐちょ ぐちゃびちょ にちゃ にちゃ どじゅ ぐじゅ じゅぐ どろり ぶしゅ びちょ ぶちゅ にちゃ にちゃ ぶじゅ ぐじゅ ぐじゃ ぐぢゅ どろり びちょ ぐちゃ ぐちょ びちゃ ぶちゅ ぐちょ ぐちゃ ぶじゅ ぐじゅ ぐじゃ ぐぢゅ どろり びちょ ぐちゃ ぐちょ びちゃ ぶちゅ ぐちょ ぐちゃびちょ にちゃ にちゃ どじゅ ぐじゅ じゅぐ どろり ぶしゅ びちょ ぶちゅ にちゃ にちゃ ぶじゅ ぐじゅ ぐじゃ ぐぢゅ どろり びちょ ぐちゃ ぐちょ びちゃ ぶちゅ ぐちょ ぐちゃ ぶじゅ ぐじゅ ぐじゃ ぐぢゅ 完全に肉塊となった巳百合には、あの美しさなど ありませんでした。 美しくない巳百合には、もう何の価値もありません。 肉塊はヒグマの巣穴に捨てました。 もしかしたら、高級ディナーを食べたし、 味は良いのかもとか思って。 煮込んでハンバーグにしてみたりもしましたが…。 やはり、美しくないモノは味まで悪かった。 まぁ…あの美しさを二度と拝めないとなると、少し残念ですが。 彼女がナカまで美しくなかったのが、悪いんです。 もしも、ナカまで美しかったなら、私と巳百合はきっと。 結ばれていたはずです。 だから、私はここに自ら来ました。 あちらで、巳百合と結ばれる為に。 巳百合の事を話したのは、貴方が最初で最後です。 今までの話し相手には、巳百合の後に殺した…えっと。 名前…何でしたかね。 あぁ…マキさんか。 いえいえ、すみません。 目眩しの為に、わざと捕まるように殺したモノですし、興味も無いもので。 巳百合の話をするに値しない方々には、マキさんの事を代わりに話していたものですね。 …だから、こうして初めて、巳百合の事を話せて心底 嬉しかったんです。 本当に、ありがとう。 −−−さあ、ここまで話しましたが。 この後、貴方には二つの選択肢が迫っています。 一、今聴いた話を全て報告し、私に新たな罰を与える。 二、今聴いた話を、私と貴方二人だけの秘密とする。 …まぁ、どちらを選んでも私が死刑になる事は免れませんが。 一を選んだ場合、真実を知った以上、貴方は私の生涯の話し相手になるでしょう。 新たな罪を見つけた貴方は、警察にとって有益な人材だ。 今まで何の役にも立たなかった方々とは裏腹に、貴方はこれから 一生期待される事になります。 私が隠している、新たな罪を聞き出す事を。 しかし、二を選んだ場合、貴方は何も責任を負う事はありません。 私の、隠されていた内の一つの罪を心に秘めておくだけで良い。 どちらを選ぶかは、貴方の自由です。 どちらを選んでも、私は貴方を殺そうとは思いません。 どちらも、私にとっては同じ結末を迎えます。 いずれ、死を迎える。 いずれ、また巳百合に逢える。 ……あぁ、最初に「心残りはない」と言いましたね。 あれ、少し間違っていました。 今、貴方に巳百合の話をしたことで。 たった今、心残りが無くなりました。 では、そろそろ時間ですね。 今日、私は死を迎えるのか。 それとも、まだ死を迎えることは出来ないのか。 どうなるのか、楽しみです。 では、今日はありがとうございました。 あとがき 最後まで読んで頂きありがとうございました。 語り手となる主人公・アズマの狂気は感じられたでしょうか。 「自分の罪に気付けていない」−−−そんなアズマの言葉や 感情表現に目を着けて頂けたら、と思います。 本当に、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
第5回NI 「帝国の終焉」
一. 元凶 葉月和也(はづき かずや)は、普段通りの生活を送る普通の大学生だった。 だが、そんな平凡な日常を引き裂いたのは、友人の仁科(にしな)からの一通のメッセージだった。 「これ、やってみろよ。絶対ハマるから。」 そのメッセージには、リンクが添付されていた。 リンク先を開くと、「アリア帝国シミュレーターVR」という 謳い文句が書かれたページが表示された。 「VR? なんだ、また新しいのか…」葉月は少し疑問を感じながらも、興味本位でそのアプリをダウンロードした。 最近、VRの技術が進化していることは知っていたが、まさかそこまでリアルに感じられるゲームが登場するとは思ってもみなかった。 葉月がヘッドセットを装着すると、目の前に広がったのは、壮大で異世界のような景色だった。 巨大な城壁に囲まれた都市、広がる戦場、そして空には無数の飛行船が浮かぶ。 すべてがリアルで、目を閉じてもその感触が身体に残るほどだった。 まるで自分がその世界に入り込んでしまったかのような錯覚を覚える。 その瞬間、葉月は気づいた。 これはただのゲームではない。 現実世界と一体化した新たな体験だった。 そして、仁科から再びメッセージが届く。 「すごいだろ? 俺はこれで帝国を築いたんだ。」 葉月はその言葉に軽い興味を覚えた。 彼は次第に、現実の世界よりもバーチャルの中で生きることが楽しくなり、しばしばゲームに没頭するようになった。 だが、その頃から仁科の様子が次第におかしくなり始めた。 ニ. 洗脳 葉月は、ゲーム内で自分だけの領土を手に入れ、次第にその支配欲に駆り立てられていった。 だが、仁科はどこかで様子が変わったように思えた。 「葉月、お前も本気でやれよ。」 ある日、仁科からこんなメッセージが来た。 「どうした? なんかおかしいぞ?」 葉月は、返事を送るが、仁科はそれに答えることなく、次第に無口になった。 ゲームにどっぷりと浸かり、彼はリアルな生活をほとんど放棄してしまっていた。 そして、次第に不安が募った葉月は、仁科に会うことを決意した。 その日、葉月は急いで仁科の家へ向かった。 電話も何度かかけたが応答はなかった。 心配しながら、ようやく彼の家に到着すると、玄関の扉がわずかに開いていた。 「仁科…?」 葉月が呼びかけながら、家の中に足を踏み入れる。 そのままリビングを通り、浴室に向かった。 ドアの向こうから水音が微かに聞こえる。 「おい、仁科。大丈夫か?」 葉月は声をかけながら扉を押し開けた。 だが、浴室の中で目にした光景に、彼は凍りついた。 仁科は湯船に浸かっていた。 だがその水はもう、真っ赤に染まっていた。 湯船の中に広がる血の色が、葉月の目を眩ませる。 仁科は無表情で、背を向けたままじっとしていた。その手には、血の滲むカッターナイフが握られている。 「仁科…!」 葉月が駆け寄ろうとした瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、仁科の肩にかけられたスマホの画面だった。 その画面には、彼が最近ハマり続けていた「アリア帝国シミュレーターVR」の文字が浮かんでいた。 彼は最後まで、ゲーム内での支配を追い求めていたのだ。 しかし、それが現実の命と引き換えになることに気づいていたのだろうか? 葉月は、思わずその場に膝をつき、呆然とその光景を見つめることしかできなかった。 仁科の顔は、どこか無表情で、そして冷たく。まるでただのゲームキャラクターのようだった。 彼の瞳は開かれたままで、何も語ることなくその場に横たわっている。 浴槽の周りに散らばったナイフが、何か不気味に輝いていた。 それはすべて、仁科が現実とバーチャルの境界を超えられず、最終的にはその虚構に飲み込まれてしまったことを意味していた。 「お前も、これが…」 葉月の目に、仁科が残したメモが飛び込んできた。 それは血のついたペンで書かれたメモで、まるで最後の言葉を絞り出すようにして残されたものだった。 『俺は帝国に逝く。ごめん。』 葉月はそのメモを手に取ると、胸が痛くて仕方なかった。 自分が友達を止められなかったことが、今さらながらに胸に迫ってくる。 仁科がどれほどゲームに依存し、現実の世界から逃げていたのか、葉月にはよく分かっていた。 だがその時、葉月は恐ろしい事実に気づく。 仁科が死ぬまで、何もかもが「アリア帝国シミュレーターVR」に繋がっていた。 彼は最後の瞬間まで、支配と権力を追い求めていたのだ。ゲーム内で築いた帝国が、彼にとってすべてだった。 その死を見届けた葉月は、ただ立ち尽くすしかなかった。 その時、仁科の死がただの悲劇ではなく、誰もが陥り得る運命であることを悟った。 葉月はその後も数時間、その場を離れなかった。 警察が来るまで、ただひたすらに仁科の体を見つめ続けていた。 しかし、心の中でひとつの恐怖が芽生え始めていた。 それは、自分もまたその支配欲に取りつかれ、同じような運命を 辿るのではないかという恐れだった。 三. 支配欲 仁科の死後、葉月はますますアプリにのめり込んでいった。 ゲーム内での支配者としての地位を手に入れるたびに、現実世界では何もできない自分に対して無力感を感じるようになった。 しかし、バーチャル世界では、何もかもが思い通りになる。 自分の領土を広げ、軍を指揮し、他のプレイヤーを圧倒することで、自分の存在が確認できる気がした。 だが、次第にその欲望は暴走し、アプリ内で暴君と化した葉月は、他のプレイヤーを虐げ、圧倒的な力を手に入れようとした。 しかし、それが次第に現実世界にも影響を与えるようになった。 葉月が支配する帝国のように、現実世界では暴力と支配の欲望が次第に膨れ上がり、街中での暴動や無法地帯が広がっていった。 誰もが、自分が支配者となりたいと願い、VRの世界に逃げ込み、暴力と殺戮が繰り返される。 そして、ついに世界政府が動き出した。 暴力と犯罪が蔓延し、現実世界の秩序が崩壊する寸前で、VRアプリは一斉に削除され、全てのデータが消去された。 葉月は、安堵と共にその後、しばらくアプリのことを忘れ、現実世界で過ごしていた。 しかし、彼の心の中には、あの支配の感覚が残り続けていた。 四. 終わらない 数ヶ月後、葉月は再びアプリを見つけた。 今度は名前を変え、「アリア帝国シミュレーターVR」ではなく、「帝国の覇者」という名前でアプリストアに登場していた。 「まさか…」 葉月は恐怖を感じながらも、すぐにそのアプリをインストールした。 ヘッドセットを装着すると、再び目の前に広がる虚構の世界が現れた。 だが、今回は少し違った。 ゲーム内で再び権力を握ることができた葉月は、もはや虚構の世界とは思えなかった。 「…」 葉月は、真っ暗な部屋の中で1人、微笑んだ。 そして、コントローラーを手に持ち、 「ただいま。」 ぽつり、と呟いた。 ー最後まで読んでくださりありがとうございました。ー
母を愛していた息子
思えば毎日が、つまらないものだった。 高校は落ちぶれた高校に入った。 僕は根暗な性格で、いつも陰気じみた僕をみんな嫌っていた。 大学は学費を払えるお金などある訳もなく、就職活動へ。 けれど、世間は厳しくて、何処も底辺の僕なんかを 雇ってはくれなかった。 やっと採用されたのが、スーパーのアルバイト。 そこでも僕はお邪魔虫で。 仕事は何度も間違えて、仕舞いには客に クレームを付けられ、クビ。 そこからは、親の仕送りで何とか生きてきた。 母には伝えられていない。 クビになったことを。 僕が生まれてすぐに父親は他界してしまった。 それからずっと、女手ひとつで育ててくれた母を、 不安になんかさせたくない。 母は心配性で、度々電話を掛けてきた。 「身体は大丈夫?ちゃんと食べてる?」 僕はその度に 「大丈夫だって。仕事も上手くいってるよ。今度、正社員に 選ばれるかもしれないし。」 と、嘘をついた。 その度に、母の安堵した声と嬉しそうな笑い声を聞いた。 嘘だよ。本当はとっくにクビなんだ。 ごめん。こんなダメな息子で。 母の声を聞く度、罪悪感に押し潰されそうになった。 そういう風に、自分を偽りながらもぎりぎりで 人生を歩んできた。 が、溜まりに溜まって溢れてしまった。 僕の事を近所のおばさん達が噂していた。 「988号室の男の人、変よねぇ。偶に外に煙草を 吸いに出てるけど、髪もボサボサだしぃ。」 「服もいっつも同じのよぉ。」 「あぁゆうの、嫌よねぇ。」 「子供に影響したらどうするのよねぇ。」 「ほんとほんとぉ。親はちゃんと教育してこなかったの かしらぁ?」 「親もそういう人なんじゃないのぉ?」 ぷつんと、何かが、切れてしまった。 母さんを、馬鹿にするな。 ふざけるな。 お前達に何がわかる? 脳のないお前達が、母さんを侮辱するなんて許さない。 許さない。 溢れてしまった。 ゴッッ 気がつけば、手が出てしまっていた。 おばさん達の1人の顔面を、殴ってしまった。 そこからはうろ覚えで。 甲高い悲鳴が、いくつも鼓膜を突き通した。 声を聞きつけてやってきた男達に取り押さえられ、僕は 警察に連れて行かれた。 おばさんの1人は全治3週間。 男達がやってくるまで、僕はずっと殴り続けていたらしい。 気がつくと取調室にいた。 「何で急に殴ったりした?」 …なんで? そんなの決まっているだろう。 「…母を侮辱されました。」 これだけだった。 これしかなかった。 あとはもう、なされるがまま。 母に連絡され、僕は警察署で待機することになった。 2日後、母が警察署に来た。 母の髪は乱れていて。 服もヨレヨレで。 ぜい、ぜいと荒い息を漏らして。 ぽろぽろと、涙を流して。 「母さん…。」 僕は母に会えて、心底嬉しかった。 1年ぶりに、会うことができた。 でも、母はそうじゃないようで。 バチンッ 母は僕の顔を見るなり、思い切り頬を叩いた。 「…何してるのよ‼︎何でこんなことしたの⁈」 「母さん…ごめん。」 「あんたをそんな子に育てた覚えはない‼︎ どうかしてるんじゃないの⁈」 「…ごめん。」 自然と、涙が流れ落ちた。 痛かったからではない。 母にこれほどまで言われた事がなくて、悲しかった。 あぁ、母さんを困らせてしまった。 視界が真っ暗になった。 それからもずっと、母の罵声が身体を、心を貫いてきた。 そして母に引き渡され、全て白状することになった。 アルバイトはクビになったこと。 正社員なんてなれっこないこと。 理由もなく、殴りにいったこと。 母は、ただ話を聞いていた。 涙を流しながら。 それからは、借りていたアパートを出て、実家に 戻ることになった。 けれど、そこからはどん底で。 母は冷たい目を向けてきた。 一切口を聞いてはくれなかった。 母のために今まで頑張ってきていた。 が、もうそれも無駄なようで。 もう、何もかもが無くなったような気がした。 だから、僕はこの人生を終わらせた。 ごめんね、母さん。 人を殴ったりしてごめん。 あのとき、母を侮辱されたのが許せなかった。 でも、そういうと母さんはまた抱え込んでしまう。 だから、言えなかった。 ごめんね。 これを読んでいる時、僕はもういないんだと思う。 どうか、自分のせいなんて思わないで。 僕が、母さんをただ勝手に守りたかったんだ。 母さんは、僕の誇りで、生きる理由だった。 それを馬鹿にされて許せなかった。 だから、気にしないで。 仕送り、いつもありがとう。 実家の漬物とか、野菜、美味しかったよ。 また、いつか食べたいな。 母さん。 世界で1番、愛しています。 誰よりも、ずっと。 母さん。 またいつか、会えますか。 その時は、また謝らせてください。 さようなら。 ごめん。 ありがとう。 自ら命を絶った、男性(19)の生前の物語。
呼吸かな
すって、はいて またすって、はう。 なんども、なんどもくりかえす。 はいすぎたあまり、つかれがたまっていく。 からだはかるいのに、からだはおもい。 それでも、くりかえす。 こんなところでしんでたまるか。 すって、はいて またすって、はう。 ずる ずる ずる ずる 擦って、這いて また擦って、這う。 何度も、何度も繰り返す。 這いすぎたあまり、疲れが溜まっていく。 体は軽いのに、身体は重い。 それでも、繰り返す。 こんな所で死んでたまるか。 擦って、這いて また擦って、這う。 ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる ずる 両足を切断され、山道をひたすらに這う男がいた。
みるな
深夜番組の中で、とある子供向け番組が話題になっている。 なんでも、その番組はとても奇妙なモノで、 放送時間は4:44分44秒からたったの三分間。 その三分間の映像を観てしまうと、奇妙なことが起こるらしい。 しかし、ネット上にはその映像が何処にも流出しておらず、 情報は前記のみ。 Xで「みてみるよ」とツイートした人達は全員、 その後のツイートが無い。 馬鹿馬鹿しい。そんなモノがあれば、 とっくに流出しているはずだ。 そもそも三分間の映像を観て何になる? 作り話だろう。 そう思った俺は、面白半分でその番組を観ることにした。 深夜4:44分。 テレビの前に座り、目を見張ってテレビを眺めた。 すると。 とつぜん、砂嵐だった映像がぷつんと切り替わり、 目の前に真っピンクで埋め尽くされた遊園地が映った。 「な、なんだこれ?」 しばらくの間、ピンク色の遊園地が映し出され、 そして真ん中に白いウサギが登場した。 どうやらマスコットキャラクターのようだ。 しかし、なんとも気持ち悪い。 左耳は折れ、目がどろり、と飛び出している。 口はニンマリとほくそ笑んでいる。 「きもちわるっ。こんなもん映すんじゃねーよ。」 ウサギが喋り出す。 「やあ、皆んな!元気かい?今日もたくさんのお友達が 入園をたのしみにしているみたいだね!」 「…入園?」 遊園地に入園することか?どういう意味だ? 「今からそっちに迎えに行くね!待っててね!」 …は?なんだそれ、迎えに行く? そうして、テレビはすぐに砂嵐に戻った。 そこからは、もう何も映らなかった。 「…はぁ。なんだったんだよ。結局気持ち悪いウサギが映っただけじゃねーか。奇妙なことも起こらなかったな。」 呆れて布団に入ろうとした瞬間。 ピンポーン。 突然、家のチャイムが鳴った。 ……え? こんな時間、に? 今は夜中の4時だぞ。 何考えてんだよ。 ……まさか。 迎えに、来た? いや、おかしい。ありえない。 たかがテレビ番組だ。そんなことがあってどうなる? ピンポーン ピンポーン ピンポーン チャイムが鳴り響く。 「いやいや、、おかしいって。」 鼓動が一気に速くなる。 冷や汗が滲み出てきて、寒気がしてくる。 どう、する?本当にあのウサギが迎えにきたんじゃ無いのか? ピンポーン ピンポーン ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン チャイムが何度も何度も鳴る。 やばい。 普通じゃ無い。おかしい。 急いで友達に連絡しようと携帯を取った。 そのとき。 ガチャ。 …?! な、なんで、、?!? 鍵は閉めていたはずだろ!! なんで開いてんだよ!! 俺はすぐさま寝室に逃げ込んだ。 来るな。来るんじゃねえ。 息を殺し、しゃがみ込んだ。 足音はしない。だが、確かに気配はする。 ただ、必死に息を殺しこの悪夢から覚めるのをまった。 すると。 ガチャリ …あ。 「…まさか、入って、きた?」 「ぴんぽーん。」 …テレビなんて、観るんじゃなかった。
明日も一緒に
「僕、明日死のうと思うんだ。」 「そうなのか。」 「うん。だから今日で会うのが最後なんだ。」 「そっか。じゃあ最後に家来ねえ?」 「…いいよ、行こっか。」 「うい。」 「お邪魔します」 「誰もいないから大声出してもいいぜ。」 「やめとくよ。」 「つまんねーの。まあいいや。ケーキあるぞ、食うか?」 「いいの?僕、明日死ぬんだよ。」 「いいに決まってるだろ。」 「そっか、ありがとう…。」 「お前はチョコだよな?」 「チョコ好きなの、覚えててくれたんだね。」 「当たり前だろ。俺はお前の親友なんだから。」 「…そっか。」 「暇だしそれ食い終わったらスマブラしようぜ。」 「うん。やろう。」 「お前いつもカービィだよな。なんでだ?」 「…なんとなく、かな。」 「ふーん。まあいいや」 「あ、もうこんな時間かー。もう帰るか?」 「うん。そうしようかな。」 「おう。明日も来るか?」 「………。」 「…あぁ。そうだったな。」 「あの、」 「どうした?」 「今日僕と遊んでくれて、ありがとう。」 「なんだよ、律儀だな。」 「……。君は、君だけは。僕の好物を知っていて、いつも使ってたキャラでさえ、覚えててくれてる。スマブラも一緒にするのなんて2ぶりなのに。」 「当たり前だろ。」 「…なんで、死のうと思ってる理由も何も聞かないの?」 「聞いたところでお前は死んじゃうんだろ?」 「…そうだね。」 「……でも、お前が死んだら俺はスマブラする相手がいねえんだ。今日だってカセット取り出したの、2年ぶりだぞ。大体、学校辞めたと思ったら電話も繋がらないし、なにしてんだよ。で、今日いきなり呼び出してさ。いい迷惑だぜ。」 「……ごめんね。でも、我儘な僕に付き合ってくれてありがとう。本当に。君だけだったんだ。最後に会いたい人が。」 「そうか。まぁ、許してやるよ。」 「ありがとう。優しいね。」 「うるせー。で、明日は何のキャラ使うんだ?」 「…………カービィ、かな。」 「やっぱりかよ。」
拝啓、ゾンビになった君へ
2023年11月2日の今日、彼女がゾンビになっていた。 …ゾンビってこんなもんか。へぇ。 漫画でしか見た事無かったけど、イメージ通り過ぎるな。 顔や腕の皮膚は腐れ、足は片方折れている。 それは以前の彼女とは別人だ。 目はドロリと溶け落ちている。 汚いぞ、床に垂らすな。 そんな呑気な事を考えていると、彼女が俺に飛びかかってきた。 おい、危ないな。ゾンビって噛まれたら感染とかするんだっけ…? うーん、それは嫌だな。 とりあえず動けないようにするか。 俺は彼女がダイエット用に使っていた縄跳びで、椅子に縛り付けた。 −−−よし。何とか身動きはできないようになったな。 それにしても何故こうなった? 何かの感染症か? 改めて彼女をじっくりと見てみる。 …不細工な顔だな。可哀想に。 ご自慢の髪の毛も抜け落ちちゃって。 …正直、こんな姿になって清々してしまう。 きっと何かバチが当たったのだろう。 思えば、いつも俺に指図ばっかしやがって。 お風呂も沸かさないし、ご飯も作らせて。 ドライヤーすらも出来なかったよな、お前。 いつも面倒臭いって言って。 面倒臭いのはこっちだっつの! …あぁ、でもそれも今日で終わりか。 なにしろこんな姿になってしまえば、もう何も必要ないだろう。 ご飯だって作らなくていいし、ドライヤーだってしなくていい。 嬉しい事だ。 嬉しい事なんだ。 ご飯を食べる為の腕も腐り落ちている。 もう一生俺の手料理は食べられないだろう。 足だって折れている。 これでもう俺とダイエットの縄跳びなんて出来ない。 髪も、俺がドライヤーなんて出来ないほど抜け落ちている。 目も溶けている。 俺の顔を見る事はもう出来ない。 なんなんだよ。なんでだよ。 なんでゾンビになんかなってんだお前。 なぁ。俺の作った料理を、また褒めてくれよ。 俺にまた髪を乾かさせてくれよ。 頼むから、もう一度俺の顔を見て笑ってくれ。 神様。 そんな事を願っても、彼女はただ呻き声をあげるだけ。 もう俺の事を覚えていない。 いつも膝の上に乗り甘えた声で話しかけてくる彼女はもういない。 そこにいるのは俺の事を“食物”として見ている一匹のゾンビだけだ。 −閲覧ありがとうございました−