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【10分完結】憧れた先輩は、世界一の馬鹿だった

【憧れた先輩は、世界一のバカだった】 「やぁ、ずいぶんと酷い顔だね」 叶江 美紅(かなえ みく)は、俺の憧れの先輩は、そう言った。 「そりゃ随分酷いこと言いますね?先輩みたいな綺麗な人に馬鹿にされたら、僕泣いちゃいますよ?」 俺、佐藤 直哉(さとう なおや)は取ってつけたような笑みを顔に貼り付け、必死に感情を殺していた。 だってそうだろう?憧れた人に、恋焦がれた女の子に、情けないところを見せたい男なんていないだろう? 「君にそんなニヒルな笑みは似合わないなぁ」 そう言って、先輩は1歩ずつ近づいてきて、そして、そっと頬に触れた。 まるで、小指からゆっくりと包んでいくように。 まるで、形のないものに触れるように。 まるで、心そのものに触れるように。 その瞬間、自分の中で何かが外れる音がした。 俺は、それをなんとかして繋ぎ止めようとする。ただひたすらに、必死に、崩れないように。 あまりに一生懸命すぎて、少し汗をかいてしまったかもな。 そうだ、これは汗だ。だったら、別に隠すほどのことでもない。男の子なら、汗くさいぐらいが、一生懸命でがむしゃらなぐらいが、ちょうどいい。 「君は、汗っかきだね」 そう言って先輩は、なぜか目からしか出てこない汗を、そっとハンカチで拭った。 「なにがあったの」 優しく、慈しむような、そんな声が聞こえて、 「うっ、ぐ、がぁっ」 完全に崩れてしまった。一生懸命耐えてたのに。がむしゃらに我慢してたのに。1度認めてしまった涙は、止まることを知らなかった。 「じつ、は、おばあちゃんが、っ、事故でっ、」 俺は生まれてすぐ、両親がいなくなり、おばちゃんに育てられた。おじいちゃんは俺が小学校に入るのと同じくらいに旅立った。だからこそ、高校生になる今の今まで、1人で育ててくれていたおばあちゃんが、居なくなってしまったことが何よりも辛いんだ。 「っ、そう、それは、、つらいね」 それから先輩は、それ以上何も言わずにただずっとそばにいてくれた。 1週間が経ち、俺は立ち直ることができていた。といっても、自分1人で立ち直れたわけではなく、やっぱり先輩には敵わないなと思わされた。 たとえば泣いたあの日、結局先輩は2時間もそばに居てくれた。 たとえば次の日、朝からずっと家に籠り、1人暗くなっていた時、先輩は家に来て、心に染みるような料理を沢山作ってくれた。 たとえばさらにその次の日、やっぱり家で籠っていると、先輩はまた家まで来て、 「いつまでそうしてるつもりなの?君がそんな姿じゃ、おばあちゃんが責任を感じちゃうよ。感謝してるなら、安心させてあげなよ」 「向こうでおじいちゃんといっしょに、君を見てて笑えるような、そんな人生にすることが、おばあちゃんに対する恩返しなんじゃないの?」 正直に言ってしまえば、うるさかった。なにも考えたくなかった。ただ、 ただ、やっぱりおばちゃんには笑っていてほしいと思った。 そんなこんなで、先輩にはとてもお世話になった。だから、ちゃんとお礼を言うべきだろう。 「先輩、いろいろ、ありがとうございました」 「いーよいーよ。まぁ、大切な人がなくなったとき、1人で立ち直れる人間のほうが少ないよ...。」 そして先輩は、少し間を空け、わざとらしく、 「やっぱり私みたいな美少女が来てくれたっていうのが大きいかなー?」 センチメンタルになりかけてたところで、空気を変えてくれる。こういうところが、惚れる要因の1つなんだろうな。 それに、本人も言っているが確かに美少女なのだ。漫画やアニメのヒロインじゃないのかってくらいに、大きくて透き通っている瞳、さらさらのショートカット、暗すぎない若干茶色が混ざったような髪色、そして、なぜか胸はアニメや漫画と比べ物にならないぐらい控えめ。 いや、ほんとに美少女だけどね!? 「どうせなら、ぼんきゅっぼんな美少女が良かったな」 「君は、ほんとにおばあちゃん想いだね。そんなに同じところに行きたいの?」 「す、すいませんでした」 どうやら触れてはいけないところだったみたいだ。2つの意味で。 それから俺は、先輩とかけがえのない、大切な日々を過ごした。季節がぐるりと1周と半分近く周り、高校2年生の三学期を迎えていた。 伝えたい想いは、言葉は、1つ決まっているのに、踏み出すことが出来ない。でもそれは、臆病なんかではなくて、たぶん、それだけ大切な想いだからなんだろう。 生ぬるいけれど、確かに幸せな時を過ごしていた。 でも、わかってる。先輩は高校3年生、つまりあと数ヶ月経てば、簡単に会うことはできなくなってしまう。そう遠くないうちに、伝えなければならない、この気持ちを。 そんなことを考えながら、今日も校門で先輩を待つ。気づけばこんな関係が日常と化していた。 「ごめんね〜、ちょっとあって遅れちゃった...。」 心做しか、先輩の表情が曇って見えた。 「大丈夫ですよ、先輩の事考えてたらすぐでしたから」 だから俺は、いつかしてもらったように、わざとらしく明るく振舞った。 「へぇー、私のこと考えてたんだ」 「あ、やべ、余計なこと口走っちった」 俺が大袈裟に口を抱えるポーズを取り、くすくすと笑い合えば、いつもの空気だ。 他愛のないことを話しながら帰宅する。 たとえば、久しぶりにあった先輩は少し髪が伸びていたとか。 たとえば、健康診断で2kg太っていたとか。 でもなぜか、健康診断の話をしたとき、先輩の表情がまた曇った気がした。 もしかしたら、先輩も太ったのかな?なんて失礼なことを考えてしまった。 そうした会話の中で、俺は気になっていたことを切り出した。 「先輩は、どこの大学に行くつもりなんですか?」 先輩は、一瞬目を見開いて、そして続けた。 「うーん、このままこのあたりの三辺(みなべ)大学とかにしようと思ってるよ」 三辺大学とは、今俺たちはが通っている三辺高校のほとんどの生徒が流れていく大学だ。高校から徒歩7分という近さゆえ、帰り道で大学生らしき人をよく見かける。 「じゃ、卒業しても案外会えたりするかもしれないですね」 「卒業か、ねぇ、今度の日曜日、遊園地でも行かない?」 「それってデ 「卒業の思い出作りしたいからッ!!」 俺の言葉は打ち消されてしまった。あーはいはいデートじゃないですねー。でも、 恥ずかしがってる先輩かわいいッ! なんか赤くなってるし、目潤んでるし、必死だし。そんなにならなくても喜んで行くのに。 「わかりました、日曜日ですね。楽しみにしてます、デー 「ちがうってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 そうしてデート(自分的にそう思いたい)の約束をして帰宅した。家でしばらくご機嫌でスキップしてたというのは、直哉の中だけの秘密だ。しょうがない、だってかわいかったんだもん。 日曜日当日、俺は集合時刻の20分前から待ち合わせ場所に来ていた。 いずれ来るはずの先輩をスマホを見ながらチラチラと探す。 いや、誰が不審者だよ!? なんて、心の中でツッコを入れていると、 「またせちゃったかな?」 振り向いたら天使がいた。 もう一度言おう、天使がいた。 私服の先輩に気圧されていると 「見惚れてないで何か言ってよ、似合ってる?」 「似合ってますよ、似合いすぎて直視できないから帰っていいっすか?」 「帰る気ないくせに〜」 そう言ってぐいっと1歩近づき、顔を見上げてくる。 やばい、今日の先輩は軽いジョークで躱せないぐらいにかわいい。女の子の私服、ヤバイネ。 「ま、まぁ、とりあえず、楽しみますか」 我ながら下手な話題変換だと思いながら、2人でくすくす笑い合った。 気がつけば夕方になっていた。ほんとうに疲れたし、楽しかった。 ジェットコースターに乗ったら、先輩が半泣きになっちゃったり、 お化け屋敷に入っても、やっぱり先輩が半泣きになっちゃったり、 とにかく、学校生活では味わえない、非日常を堪能した。 「今日はありがとう、ほんとにたのしかった...。」 「僕も先輩とデー、おっとっと、思い出作りできて楽しかったですよ」 「もうっ!!あと、それとさ...。」 先輩の声のトーンが下がった。 「私、受験で忙しいと思うから、受験終わるまでは逢わないようにしようと思うんだ」 そっ、か...。 「そ、そうですか、受験大変ですもんね。頑張ってください、まぁ逢いたくて逢いたくてたまらなくなっちゃったら、いつでも呼んでくださいね?」 俺は、この機会しかないと思っていた。今日こそ、先輩に想いを伝えようと。 でも、そんなこと言われたら、今伝えるなんて、到底無理じゃないか。 だから、またくだらないジョークを入れた。 先輩が勉強に集中できるように。 「うん...。」 あれ、今のところは、また先輩もなにかくだらないことを言い合って、笑い合って、さよならするところじゃないのか? 先輩も遅れて気づいたのか、慌てて笑顔を浮かべて 「受験が終わったら、また逢いにきてよ。まぁ君がそれまでに寂しくて死んじゃわないか心配だけど」 そういって今度こそ、くすくす笑い合った。 それから俺は、退屈な時間を過ごした。 先輩と逢えない、それだけで1日が48時間に感じたし、帰り道が大嫌いだった授業よりもつまらなく感じた。 でも着実に、一定の速さで時は進み、そして、受験シーズンが終わりを迎えた。 「約束通り、先輩に逢いに行こう」 道中、俺は走った。一刻も早く逢いたかったから。逢わなければならないと感じたから。 そして、先輩が一人暮らししていたマンションの部屋に着いたのだが、そこの表札には違う人の名前が書かれていた。 俺は大家さんに事情聞いた時には、走り出していた。 先輩が2ヶ月近く前から入院していただって? そんなの、うそだろ...。 心臓が破れんばかりに走り、走り、走って、俺は先輩が入院しているらしい病院にたどり着いた。 「先輩ッ!」 勢い良くドアを開け、今度こそ先輩の名前が書かれている病室に入った。 「ん?あぁ、、君か、」 そこには沢山の管が付けられている先輩の姿があった。 「ッ、どうしたんですか先輩ッ!」 「びっくりさせてごめん、でも落ち着いて、ちゃんと聞いて欲しい」 先輩は、普段の様子では想像もつかないほどに弱々しい声で、そう言った。 「まず、私の病気について話そうか。私は生まれつき病気を患っていてね、良くて20歳、早ければ16歳で死ぬって言われてた」 理解ができなかった。先輩が、死ぬ?そんな、わけが、 「そして私は三学期最初の健康診断で、放課後、先生とお医者さんに呼ばれた。その時に伝えられたのが、もって半年、早ければ2ヶ月ももたないって」 う、そ、? だよ、な、? 「ほんとうは、もうそのときから入院して、安静にしてなくちゃいけなかったんだけど、そんな最期、味気ないと思っちゃったんだ」 「だ、か、、ら、」 「そう、だから君を遊園地に誘った。その、でーと?に誘ったの。想い出が、ほしかったから。そして、君に心配かけないよう、受験が終わるまで逢わないように仕向けた」 一拍を空けて、 「私が死ぬところを君に見せないように仕向けた」 あぁ、やっぱりそうなのか...。先輩は... 「そして今その刻が近づいてきてるってだけ。本当は君が来る前に死んでいるつもりだったんだけど。まぁ、これで私の病気についてはおしまい。次に、私の、家族関係について...」 か、ぞく? 「君は、私がいつ死んでもおかしくない状況で、家族の1人もここにいないことに違和感を感じなかったの?」 それは、俺がこの病室に入った時から感じていたことだった。 「実はね、私も両親、そして祖父母がいないの。祖父母は君と違って、両方とも安楽死だったけど、両親は離婚をきっかけに、全く無関係になっちゃったんだ」 先輩は、どこか懐かしむように、 「だから、君がおばあちゃんを亡くした時、その気持ちが痛いほどわかったの。だから、そばにいてあげたかった。」 でもね、と、切なげな声で、 「私は、もうダメみたいなんだ。だから、最期に1つ、約束。」 もう、ダメ、?最、期、? 「君は恐らく、おばあちゃんを亡くした後、私を生きる意味の1つにしていたんじゃないかと思う。でも、私は死ぬ。だから、君はまた ひどく落ち込んでしまうと思う。」 先輩は真っ直ぐ僕の目を見て、 「だけど、逃げてはダメだよ。生きる意味を見失ってはダメっ!身勝手なことを言っていることはわかってる。でもねッ、君には、笑っていてほしいッ!」 あぁ、ダメだ。それを聞いたら、涙が溢れてしまう。かっこ、つかなくなっちまう、 「だってッ、君のことが好きだからッ」 目元が熱くなる。我慢してたものが、出てしまう、 「そんなの、俺も好きにきまってるじゃないですかッ!」 そんなふうに言われたら、どんなに苦しくても、絶望しても、歯食いしばって前向くしかないじゃないかッ! ふっ、と先輩は一瞬微笑んで、そして... 「頼んだよ」 そう囁いて、すっと眠りについた。 だから俺は、彼女に紡ぐ。 「知らないからな...。俺が美味しいもの食べて幸せな顔してるのを見て、向こうで嫉妬しても...。」 彼女の前髪を指の腹でそっとはらう。 そして、 俺は逃げずに真っ直ぐにその光景を見て 「あんたは世界一の馬鹿だよ。でも...」 俺の憧れた先輩は、世界一の馬鹿だった。 だけど、だけどッ! 「宇宙で1番、愛してる」 【あとがき】(読まなくても本編には全く関係ないので飛ばしてもらって構いません) twitterで気になっていたところ、お声かけ頂いて、即インストールして使ってみました。 第一印象は読みやすいなと感じました。書くのは少し複雑(?)なので慣れが必要かなと思いました。 作品の話になりますが、これは初めて作った作品です。なので拙い文章ながら、少しでも皆様の暇つぶしやらなんやらに慣れたなら、幸いです。 ご愛読ありがとうございました。

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