美しい僕の妻

美しい僕の妻
君の手先、鼻筋、唇、まぶた、目の色、筋、耳の形まで全て美しい。 時々困ったように眉をつり上げる仕草は何千回と見てきた。 そんな君を、また、美しいと思った時のお話。 ある春の日、僕は会社に遅れそうになった。ドタバタと忙しい街の風景に押しつぶされそうになりながら、僕は満員電車に揺られて、ごく普通の会社に向かった。今日は会議の日。1週間ほど前から集中して作り上げてきた企画書を、上司の前でつらつらと読み上げていく日。でも、つらいって訳じゃない。なんてったって家に帰ると妻がいるから。 僕の妻はものすごく美人だ。小顔でスタイルが良くて見ているだけで罪な存在だ。だから頑張れる。僕は家に帰ってから妻と一緒にご飯を食べて、映画を見て、寝る。それだけの事でも1日頑張れるのだ。 さて、会議の時間だ。鉛のような足を一歩づつ、進めていく。止まる。ドアノブに手をかける。押す。上司の顔が見えた。どうやら遅刻したらしい。ナイフのような視線を向けられてドキリとする。そりゃそうだ。遅刻したんだもの。「すみません。遅くなりました。今から参加してもよろしいでしょうか。」会議が始まった。 ふぅーと息をついて思い切り椅子に座った。やっぱり上司は怖いものだ。今回の企画も根こそぎ変えられてしまった。次こそはと力を入れる。その時、電話がなった。隣の席の電話機からだ。残念なことに、隣には誰も座っていなかった。仕方なく手を伸ばす。電話に出る。「お電話ありがとうございます。こちら〇〇会社でございます。ご要件はなんでしょうか。」 気がつけば涙がこぼれていた。妻についてだった。いつもそうだ。僕は大事な時に遅れる。今日の会議だって遅刻した。でも、でも、これはないだろう。お弁当を届けに来た妻が、車に轢かれるだなんて。すぐにタクシーを呼んだ。持っているのはスマホと財布だけ。ほかのものなんていらない。できるだけ早く行かなければ。
アップル🍎
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学生です。絵を描くことと小説を書くことが好きです。誤字脱字は見逃してください。