ショートケーキ
夏の浜辺は息がつまるくらいの暑さだ。さざなみの音が散歩で疲れた体に心地いい。遠くには雲が水平線と並行にすーっと伸びている。私はいままでの嫌な思いを放り出すように背伸びする。そして辺りをあらためて見回してみる。すると西の視界の端っこに何やら人影が見えてくる。おそらく白い布を着た白髪の老人なのだ。私はそれまでの重たい思いを断ち切るようにその人影を目指して歩き出す。人影はどうやらどこかの海から流れ着いたようだった。
近くまで来てみると私の考えは正しかったのがわかった。彼は溺れていたのを流れ着いたようだった。服はびしょびしょに濡れて、うつ伏せで意識がないようだった。私は彼の背をとんとんとたたいてみる。「うっ」という声とともに彼は身を覚ます。その端正な顔立ちからしてギリシャ人のようだった。
私は彼を担いで立たせると近くの座れる場所まで連れていった。そしてそこに座らせると話を聞くことにした。なぜか私はギリシャ語がわかるようになっていた。彼はいう、「私は古代ギリシャの哲学者だ。君は私を助けてくれるというのか」。
「いや別に助けるとかそういうんじゃ…」
私は少し困り顔でそういう。たしかに助けるとかそういうつもりはなかったのだ。
「いわゆる私は古代ギリシャから流れ着いた時の旅人なのだ。君は何か悩みを持っているように見える。そうだ。私に相談してみるといい」
古代ギリシャからきた時の旅人はそういう。私はうさんくさく思ったけれども、誰かに話したい気分でもあったので、考えるふりをしてからおもむろに話し出す。
「いや、あの、自分は好きな人がいるんですが、その人は私が好きではないらしいんです。それでもやもやして、こうして浜辺を散歩していたんですが、どうしたらいいかと思って…」
「ふむ、そういうことか。君は一つ勘違いしている。いまというのはいましかないという当たり前のことを忘れてな! 君はいまがずっとこの後も続くと思っている。それは間違いだ。いまはいましかない。次に訪れるのは新しい君なのだ。だから君はしたいようにしなくてはいけない。目の前にある食べ物はすぐ食べなくては腐ってしまう。食べられるときに食べねば。君のいまという状態もいまだけなのだから」
私はそういう彼の言葉がさっぱりわからなかったけれども熱意は感じた。それで私はすぐ引き返してかんなちゃんに告白した。結果は散々だったけれどよかった。あの古代ギリシャの哲学者は何だったのかいまでも私にはわからない。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2022/12/27 16:07
まあ🧅
カモにならないように、人に近づけるように。最近自分のことがわかってきたおじさん