二人の少年

二人の少年
 川のふちで二人の少年が、釣りをしていました。川水は、岸にはえている、草の葉の下を流れて、あるところでは、道草をとるようにゆるく、あるところでは、思い出したように、急に走ってゆきました。   ひとつ、草むらを隔てて、同じ岸で釣りをしている孝吉は、すこし怠屈になって、隣の信男に話しかけたのです。 「信ちゃん、引くかい。」   ちょうど、このとき、信男はいっしんに浮きを見つめていました。さっきから赤い浮きが、ちょいちょいと動いて小さな魚が、水の中で、それに触っているようすが見えるような気がしたのでした。 「ごく小さいのだね。さっきから引くけど、釣れないんだよ。君は、なにか釣ったかい?」と答えました。 「まだ、なにも釣れない。君んとこは、引くからいいけど、僕んとこは、ちっとも引かないのだ。」 孝吉は、糸を上げて、針についている餌をしらべてみました。そして、ふたたび水の中に投げ込んで、辛棒をつづけました。 この間に、空の雲は、形を変えたり、また、居所をかえたりしました。さっき、かすかな叫びをあげて、目の前で、うずを巻いていった水は、もう、どこへいったかわかりません。ただ、あとから、あとから、追いかけるように、新しい水が、つづいてゆくのでした。  ぼんやり、いま、どこにきているのか、恐れていると、ときどき、あちらの丘を越えて遠くから、汽車の汽笛が、きこえてくるのです。  このとき、あたりの静けさを破って、突然、川上の方で、人声がしました。
時間の旅人
時間の旅人
大切なものを取りに戻ります